更新日:2023年05月23日 17:45
エンタメ

鴻上尚史、渾身の最新エッセーは38年間の「ごあいさつ」

「ごあいさつ」が生まれた理由

 僕は驚きました。「お、俺にはもうすることがない!」  まあ、後は、キャストとスタッフを信じて任せろ、ということなのです。でも、ここで不安に押しつぶされた演出家は、楽屋に入って「あのシーンなんだけどさあ」と本番直前の俳優の心を乱すとか、照明チェックしているスタッフの耳元で「もし、ライトがつかなかったらどうしよう?」なんて混乱させたりするわけです。  周りを信用しないで、とにかく、全部に口を出してくる上司っているでしょう?  で、おいらは、「いかん。間違っても、そんな奴になってはいかん」と思ったわけです。でも、思ったところでやることがない。やることがないと、むずむずして、キャストやスタッフに余計なことを言ってしまうかもしれない。「どうしよう。よし! 観客に向けての文章を書こう!」と決めたわけです。  それが「ごあいさつ」でした。  旗揚げ公演では、そう思ってしこしことノートに書き始めましたが、開場の六時半には間に合わず、結局、二日目にガリ刷り(!)の「ごあいさつを配りました。「ガリ刷り」なんて、知らないかもしれません。  で、そうやって、22歳の旗揚げ公演から「ごあいさつ」を書き続け、なんと、最新作の『地球防衛軍苦情処理係』までの「ごあいさつ」38年分をまとめた本が出版されたのですよ!  すべての「ごあいさつ」には、その時の公演の解説とか小さなエピソードを書き添えました。  いろんなことがありましたなあ。もともと、初日に仕事がなくなったから書いたわけで、初日前日までは余裕がないことの方が多いです。  結果、初日に「ごあいさつ」が間に合わない、なんてことは普通です。第三舞台の時は、「ごあいさつのおわび」という、俳優全員が鴻上に代わって、一言謝る、寄せ書きのようなものをコピーしたりしました。今から思うと、これは貴重です。  そんなわけで、僕の芝居で「ごあいさつ」を読んだ人も、読んだことがない人も、手に取っていただけると幸せです。  鴻上のムチクチャ気合の入ったエッセーだとも言えるのです。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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