仕事

10万円稼いで一人前!? 現役アニメーターに聞く“過酷な現場”

 制作本数は年間300タイトル以上、市場規模は2兆円超えと、日本を代表する産業となって久しいアニメだが、低賃金や長時間労働など、ブラックな労働環境が話題になることも少なくない。そんな業界のリアルを、第一線で活躍するアニメーターが語り倒した本『アニメーターの仕事がわかる本』が話題だ。著者の西位輝実氏に、アニメ制作現場の知られざる内情を聞いた。

『アニメーターの仕事がわかる本』著者・西位輝実氏に業界のリアルを直撃

アニメ業界という村社会

――『アニメーターの仕事がわかる本』では、アニメーターの働き方、業界の現実を分かりやすく、そして非常に赤裸々に語られているのが印象的でした。本書が作られたきっかけを伺えますか。 西位:桑原清幸さんという会計士さんが書かれた『駆け出しクリエイターのための お金と確定申告Q&A』という本がありまして、そこで取材を受けたことがきっかけです。私は、アニメーターが集まる交流会を企画していて、そこで「確定申告をしたことがない」という人が想像以上に多かったので、税理士さんを呼んで、ついでに確定申告の説明会なんかもしていたんですよ。 ――それで取材の申し込みがあった、と。 西位:はい。で、その時にした私のアニメ業界話がバカ受け&ドン引きみたいな感じで(笑)、版元さんが面白いから「アニメーターの働き方」というテーマで一冊書きませんか、と。それで作られたのが本書です。 ――アニメ業界の働き方と言った時、クリエイティブでやりがいのある仕事なんだろうなぁと眩しく思うと共に、「ブラック」「やりがい搾取」といったネガティブなイメージも浮かんできたりします。でも実際のところ、外から見ていると、その内実はよく分からないんですよね。 西位:でしょうね。この業界って、良くも悪くも村社会なんです。だから私自身、外部の人から「変だよ」と指摘されるまで、「こういうものだ」と思っていました。例えば、若いうちは食えなくて当たり前、とかもそう。  でも、「働き方」が何かと取りざたされる今、次の世代のためにも、アニメ業界という「戦場」に飛び込むための武器となる知識がもうちょっと共有されてもいいんじゃない? と思い、本書を作ったようなところがあります。

「好きだから」で働けるのは若いうちだけ

――本書は、アニメーターが直面している諸問題に言及されていますが、まず大きいのが「低賃金」という点だと思います。やはり、西位さんも苦労されたのでしょうか。 西位:私の初任給は、まさかの2800円でしたからね。日給じゃないですよ、月収です(笑)。そんな感じだったんで、最初の2年間は「学校に行かせると思ってお願いします」と、親に仕送りをしてもらってました。  アニメ業界では、使い物になるようになって初めてスタート地点に立てる。そこから出来高制になり、徐々に稼げるようになっていきます。 ――本の中で、2018年の調査を引いて「アニメ制作者全体の平均年収は440万円、アニメーターの中でも、動画ポジションの平均年収は125万円」という数字を出されていました。つまり、この「動画」というポジションが、新人がまず最初に担うことになる仕事なのでしょうか。 西位:その通りです。「動画」は、原画を清書する「原画トレス」と、原画の間の「動き」を補完することを主な仕事としています。動画の相場は、1枚あたり150~200円くらい、高くても500円くらい。作品やカット内容によって差はありますけど、だいたい1時間に1枚くらいのペースで描いていくことになります。 ――つまり時給150~200円…… 西位:私の動画時代は、月に300枚くらい描いて、月給4~6万くらいでしたね。 ――過酷です……。では、もうちょっと普通に稼げるようになるのには、例えば月給20万円超えるのなんて、だいぶ先のことになりそうですね。 西位:月20万はけっこう大変ですよ。動画の次のステップとして、カットの中で動きのキーポイントになる絵を描く「原画」というポジションがあります。それが私の新人の頃はだいたい1カット3800円くらいなんですけど、月30カットやったら一人前、と言われていました。  つまり、11万4千円で一人前。エグイですよねー(苦笑)。もちろん、ちゃんと絵を描けて、続けていけば着実にギャラも上がっていきますけどね。 ――それでも続けられるのは、やっぱりアニメが好きだから? 西位:結局、そういうことになるんでしょうね。こんなに楽しいんだからしょうがないか、みたいな感じ。「ご飯は米だけでも別にいいか」みたいな年齢だったからこそ耐えられた、という部分は少なからずあると思います。  そういう意味では、大学を出てから来るにはしんどい業界かもしれません。「好きだから」で無理がきくのは若い時だけ、私もせいぜい27歳くらいまででした。だから、そのくらいまでに食えるようにならないと、心が折れてしまうかもしれませんね。
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アニメ業界に「社会の常識」は通じない?
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