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デビュー2作目で直木賞を受賞した現役会社員作家・川越宗一が明かす「受賞後の生活」

 会社勤めのかたわら、40歳を手前にして小説を書き始めたというその男はデビューからわずかにして小説を書き始めたというその2年足らずで眩い脚光を浴びることとなった。今年1月に発表された第162回直木賞を『熱源』で受賞した川越宗一。 川越宗一ʼ18年に発表した『天地に燦たり』が文学賞への応募2作目にして松本清張賞を射止めると、デビュー2作目で直木賞受賞。あまりにも順調すぎるように見えるキャリアを当の本人はどう受け止めているのか。

自分の幸せとか生き方とかは自分で決める

――直木賞の受賞に際しては「現役会社員が異例のスピート受賞」ということで注目を集めました。川越さんの周囲ではどのような受け止められ方をしていましたか? 川越:授賞式の会見を見てくれた会社の人には「やればできるじゃん」と言われましたね。普段、そんなにひどいのかな……。ただ、最初はみんな声をかけてくれましたが、それももう落ちついてきて今は普通です。いつも通りのダメサラリーマンに戻りました。今日もこの取材のあとに出社します。 ――「直木賞を受賞して世界が変わった」みたいなこともなく? 川越:もちろん作家さんのなかには華々しい生活を送られている方もいるかと思うのですが、僕はそんなに変わらなかったですね。お祝いの花をたくさんいただいたので、家はすごく華々しくなったのですが……。 ――物理的に華々しく(笑)。 川越:特に胡蝶蘭をたくさんいただき、大事に世話はしたものの、結局枯れてしまって泣く泣く処分することとになり。そのときに初めて気づいたのですが、実は贈答用の胡蝶蘭って見えない部分が針金で支えられていて、結束バンドでガチガチに固定してあるんですよ。おかげで「後片付けがすごく大変」という有用なトリビアを得ることはできました (笑) 。

自分が絶対に読んでみたいと思える題材を小説にしている

――スピード受賞もさることながら、小説とは無縁だった経歴も驚きをもって受け止められました。 受賞作『熱源』の題材は小説を書き始める以前にたまたま行った夫婦旅行で、アイヌ民族博物館にあるブロニスワフ・ピウスツキの銅像に出会ったのがきっかけだったそうですね。 川越:そのときはまだ小説を書こうとまったく考えていなかったので、「そういった物語があったら読みたいな」と思っていたくらいでした。ポーランド人なのになぜアイヌの土地に銅像が立っているのだろうかという疑問から資料にあたったり、そこから妄想したりして、イメージを膨らませていったという感じです。 ――『天地に燦たり』もご夫婦で行かれた旅行がきっかけだったとか。 川越:そうですね、沖縄で守礼門を見た際にいろいろなことに思いを馳せたのがそもそもの着想でした。いうなれば「もし小説になったら絶対に読みたい」っていう題材が、自分にとっての『熱源』と『天地に燦たり』の世界だったんです。 ――実際に執筆を進めていくうえで、特に意識したことはありますか? 川越:普通の人を普通に書きたいという思いがありました。登場人物は結果的に英雄のような行動をしましたが、生まれついての英雄なんてそうはいないだろうという思いもあり……「普通の人が普通に頑張ろうと思って、普通にダメになる」みたいな話があってもいいんじゃないかなって。普通の人って、なかなか目標通りにいかないじゃないですか。 ――たしかに、ある意味でありふれた等身大の挫折が、歴史的な背景や当時の空気感と合わさって丹念に書かれていたのが印象的でした。 川越:あと、明らかに悪を働く人もいるかもしれませんが、僕が思うに世の中の矛盾や理不尽の大半は基本的に誰かが善かれと思ってやっていることがグニャッと歪んでいった結果じゃないかなと。それぞれの立場があり、それぞれの言い分や事情がある。戦争や同化など『熱源』は人々が対立するエピソードが多いですが、それも誰かが善かれと思った行動が次第に歪んでいってしまった結果だと考えながら書いています。 ※4/14発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです 【Soichi Kawagoe】 ʼ78年、大阪府生まれ。京都府在住。龍谷大学文学部史学科中退。’18年、『天地に燦たり』で第25回松本清張賞を受賞。『熱源』は第10回山田風太郎賞候補、第9回本屋が選ぶ時代小説大賞、第162回直木賞を受賞。現在も会として働きながら執筆活動を続ける 取材・文/倉本さおり 撮影/尾藤能暢
週刊SPA!4/21号(4/14発売)

表紙の人/ 上戸彩

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