更新日:2022年06月29日 09:36
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アイドル界を震撼させた作品『武道館』。原作者・朝井リョウはドラマ化になにを思う!?

桐島、部活やめるってよ』などでも知られる朝井リョウ原作の『武道館』がドラマ化される。主演のグループ「NEXT YOU」を演じるのは、実在するハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)のアイドル「Juice=Juice」。NEXT YOUと同様にJuice=Juiceも武道館公演を目指しており、よりリアリティのある配役になっている。2月4日には、完成披露試写界&舞台挨拶も行われ、いよいよ2月6日の初回放送を待つばかりとなった。
「NEXT YOU」を演じるJuice=Juice

いよいよドラマ『武道館』が放送開始。映し出されたアイドルの裏側は視聴者の目にどう映るのか?

『武道館』は「かわいくいろ、だけど恋愛は禁止だ」という矛盾をはらんだ抑圧、成長期が歓迎されない風潮など「アイドルのリアル」を入口に、現代の消費者の精神性や人生の選択について描かれている作品だけに、オンエア前から話題騒然となっていた。原作者の朝井氏によると、キャスティングの時点から紆余曲折があったそうだ。 ⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1046207 (ドラマ『武道館』のキャスト陣) 朝井:そもそも最初は、既存のアイドルではなく、デビュー前の新人さんがキャスティングされる予定だったと記憶しています。だけど現実問題として、ドラマ化決定から収録までの限られた時間で、歌とダンスと演技を仕込むのは難しかったみたいです。そこで制作の方々から「実際のアイドルをキャスティングするとしたら、希望はありますか」と聞かれて……僕自身、ずっと昔からつんく♂さんが作る音楽から滲み出るアイドル観のようなものに共感していたので、「ハロプロがいいです」と伝えました。すると、Juice=Juiceの方々が引き受けてくださったんです。  直木賞作家であると同時に生粋のアイドルファンとして知られる朝井は、自身のことを「スキル厨的なところがある」と分析している(ちなみに一押しは小田さくら=モーニング娘。’16)。そんな朝井からすると、パフォーマンス力に定評があるJuice=Juiceがテレビであまり活躍できていない状況が歯がゆかったのだという。「ハロプロは、最近は特にテレビで歌唱する機会に恵まれていない気がします。自分の作品が手助けになって彼女たちの魅力が少しでも世間に広がるのなら、こんなに嬉しいことはない」と熱く語るが、これは偽りざる本音だろう。だが同時に、ドラマ化にあたってはアイドルファンゆえの複雑な葛藤も抱えているようだ。 朝井:この物語を本物のアイドルが演じる、ということは全く想定していなかったんです。おそらくアイドルファンの方々があまり聞きたくないような台詞や見たくないようなシーンも多くあるので……そのようなシーンを通して物語の本意がきちんと伝わればいいですが、安易にドラマと現実をごちゃまぜにして「あのコはもう応援しない!」とか言い出す人たちが出てこないか、というところが心配です。そういう人たちが多く出てきたときには、メッセージをうまく伝えることができなかった、と小説家としても落ち込みそうです(笑)。  原作の小説を書く際、朝井は特に具体的なアイドルを頭に浮かべたわけではなかった。「お笑い担当」「握手会での釣り師」「美人のサブセンター」……アイドルグループにおけ‘あるある’要素を凝縮させながら筆を進めていったのだ。だが、実際にドラマ化されたJuice=Juiceの5人を見て驚いた。恐ろしいほど原作のイメージと符号していたからである。ただし具体的なモデルとは別に、アイドルシーンを騒がせた話題に関しては作品の中で踏み込んでいる。峯岸みなみの坊主謝罪事件や、握手会商法の賛否などがそれだ。 朝井:坊主謝罪事件については、現代の消費者特有の精神性をすごく表しているなと思っていたので、作中でも言及しました。恋愛禁止だ謝罪しろ、と叫んでいた多くの人が、峯岸さんが坊主頭になった途端「そこまでしなくてもよかったのに」と及び腰になった。相手にあらゆることを要求してがんじがらめにするのに、その相手が自分の想像を超える対応をすると途端に萎縮する。これってアイドル業界だけのことじゃないですよね。また握手会に関してですが、僕自身は特典商法が悪いことだと思っていないんです。ネットが発達した今の世の中では、なんでも無料でモノが手に入るようになってきていますよね。それゆえ、何かを手に入れるときに悩むっていうこと自体が少なくなっている気がするんです。そうなると、自分は何を欲している人間なのか、ひいては自分はどういう人間なのか、ということがどんどんわからなくなっていくような気がして。人に、「自分は、何をどれだけ手に入れれば満足する人間なのか」ということを考えさせる役割を担っているという側面から見ると、むしろ特典商法は最後の砦的な意味もあるような気がしています。  原作が発表された当時も様々な物議を醸し出した『武道館』だが、朝井自身は単なる若い女のコのラブストーリーや、アイドルのサクセス物語にしたつもりはないと断言する。むしろアイドルに興味がない人も少し立ち止まって考えるような、そんなメッセージが込められているというのだ。 朝井:入口はアイドル業界だけれども、物語の出口に立つころには全く違う場所にいる、という作品を目指しました。ドラマでは、ライブシーンなど、活字ではなかなか表現しづらかった場面に期待しています。Juice=Juiceの皆さんは本当に歌が上手なので、パフォーマンスのシーンは本当に楽しみですね。ドラマを観て、少しでも気になる台詞や場面があった方は、原作にも手を伸ばしていただけると嬉しいです。 ⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1046220 (完成披露試写&舞台挨拶の様子) 【朝井リョウ】 あさい・りょう●小説家。’89年、岐阜県生まれ。’09年、デビュー作の『桐島、部活やめるってよ』が第22回小説すばる新人賞を受賞。’13年、『何者』で第148回直木賞を男性としては最年少で受賞。’14年、『世界地図の下書き』で第29回 坪田譲治文学賞を受賞。近著に『世にも奇妙な君物語』(講談社) <取材・文/小野田衛 撮影/日刊SPA!編集部>
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
武道館

「現代のアイドル」を見つめつづけてきた著者が、満を持して放つ傑作長編!

桐島、部活やめるってよ

瑞々しい筆致で描かれる、17歳のリアルな青春群像。第22回小説すばる新人賞受賞作。

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