「芥川賞が文学嫌いを増やしている」鴻上尚史が抱く複雑な気持ち
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
第157回の芥川賞が決定されました。芥川賞のニュースを見ると、いつも、複雑な気持ちになります。それは、「おお。芥川賞が決まったのか。そういやあ、ずいぶん、小説を読んでないなあ。よし、ここはひとつ、話題作だから買って読んでみるか」という人が確実にいて、でも、「ずいぶん小説を読んでない人」とか「1年に1回だけ小説を読む人」にとって、「芥川賞受賞作」は最も不適切なものだからです。
「芥川賞」は、小説の筋を重視しません。はっきりとした筋、面白い筋があるものは受賞できない、とまで断言する人もいます。
確かに、歴代の作品を読むと、筋らしい筋、素人をワクワクドキドキさせる筋はありません。むしろ、筋に頼らず、どう面白くするかが、眼目のように感じます。
でも、小説をあんまり読んだことのない人がまず、注目するのは「筋」。つまりはページターナーと英語で言われる魅力的なストーリーです。
そこを外して、小説の魅力を楽しむというのは、じつは、かなり高度なことなのです。小説を読み慣れた人が楽しむ領域とも言えます。
また、筋らしい筋がないまま、とても面白いというのは、かなりのハードルなのです。
『コンビニ人間』(村田沙耶香/文藝春秋)は、その奇跡を実現した作品で、普段、文学をあまり読まない人にも楽しめると思いますが、多くの受賞作はハードルが高いのです。
結果、普段、めったに小説を読まない人は、話題になった芥川賞を買って読んで「やっぱり、文学は俺にはあってないや」「文学ってやっぱり、難しくてダメ」と、大量の文学離れを量産しているように思うのです。
もちろん、これは芥川賞そのものの罪でも責任でもなく、芥川賞を盛り上げ、それを受け入れているマスコミと国民の問題だと思います。
その昔、菊池寛は小説の売り上げの増加を目指して、芥川賞・直木賞を設けたと言います。でも、結果的には、文学離れを増加させているんじゃないかと思えてしょうがないのです。
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