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直木賞作家・辻村深月が『映画ドラえもん』最新作の脚本に挑んだワケ

 デビュー15周年を迎えた直木賞・本屋大賞作家の辻村深月が、映画の脚本に初挑戦した。春休みの風物詩である「映画ドラえもん」、第39作に当たる『映画ドラえもんのび太の月面探査記』だ。藤子・F・不二雄の大ファンを公言し続けてきた作家は、のび太たちをシリーズ初の舞台となる「月」へと旅立たせた。ミステリ作家としての感性と技芸が発揮された本作は、もしかしたら大人こそ楽しめるのかもしれない。

ファンって自分の神様とは友達になりようがない

――脚本のオファーは、一度断ったそうですね。 辻村:いつか大好きな『ドラえもん』の脚本ができたらいいな、と無邪気に口にしていた時期もあったんですが、いざお話を頂いてみたら、大好きだからこそできないなと思ったんです。だって、ファンって自分の神様とは友達になりようがない(笑)。内部で関わるクリエイターになってしまうと、『ドラえもん』をただ好きなだけではいられなくなってしまうかもしれないな、と。 ――それでも引き受けた理由は? 辻村:お断りした後も、藤子プロの皆さんが私との関係を大事にしてくださって。ある時、むぎわらしんたろう先生に引き合わせていただいたんです。藤子先生は、大長編『ドラえもんのび太のねじ巻き都市冒険記』(’97年)を描いている途中でお亡くなりになりました。残された原稿を引き継いで、完成させたのがむぎわら先生です。そのときのお話を、直接お伺いすることができたんですよ。  私たちは『ドラえもん』の映画って、毎年春休みになれば新作が観られるって当たり前のように思ってたけど、当たり前じゃないんですよね。藤子先生が亡くなられた後も、たくさんのクリエイターの方たちが思いを引き継いで、大事にバトンを繋げてきたからこそ、私たちは新作を観ることができた。むぎわら先生とお会いしたおかげでそれが実感できて、私もバトンを繋ぐお手伝いをさせて頂けたらと思ったんです。 ――舞台には、月を選ばれましたね。 辻村:ドラえもんたちって、冒険に行っていない場所がほぼないんです。藤子先生の残された言葉に、「『ドラえもん』の通った後は、もうペンペン草も生えないというくらいにあのジャンルを徹底的に描き尽くしてみたい」というものがあるんですが、いざ確認してみたら本当に何も生えていなかった(笑)。奇跡的に残っていた冒険の舞台が、月でした。 ――辻村さんが書き下ろされたノベライズ本を読むとよくわかるんですが、冒険の舞台はおとぎ話の「おつきさま」ではないんですよね。科学考証的にガチの月なんです。子どもが観る作品だからって手加減しない、という意思を感じたのですが。 辻村:藤子先生は『ドラえもん』を描くときに、実際の科学や物理学で今どういうところまで研究が進んでいるのか、例えば恐竜を描くにしても最新の学説による姿がどんなものかなど、常に気にされながらお話を作っていらしたそうです。私たちも月を舞台にするならば、『ドラえもん』である以上は、ただの絵空事の月を描くわけにはいかなかったんです。
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何度も頓挫していた月面着陸
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