恋愛・結婚

コロナ禍の歌舞伎町ラブホ街、国からの経済的差別にどう抗った?/古谷経衡

「密」監視のご時世において…

 その代わりコロナ禍におけるラブホの営業努力とは、チェックアウト時間の大幅延長である。通常、週末のラブホ街(歌舞伎町ならA立地、準B立地)のチェックアウト時間はおおむね午前11時というのが掟だが、コロナ禍での苦心の方策として、チェックアウト時間を午後2時ないし午後3時まで延長している店が非常に多かった。むろん、これは事実上の値下げなのであるが「昼すぎまでゆっくり泊まれる」ことを売り文句に経営努力がなされているのである。  この日、威力偵察の勢いで私が独り泊まったラブホテル(A立地)も、金曜夜ならチェックアウト翌11時のところを午後3時に延伸して価格は据え置きであった。平時なら「満室」でなかなか泊まることのできないこれらA立地のラブホにも全然空室が目立った。金曜夜にA立地の歌舞伎町のラブホに泊まるか否かは、ほぼ運否天賦の賭けであるが(もちろん独りラブホのプロである私から言わせればそれはテクニックの範疇であるものの)、それが何の躊躇も無しに「空室」とある。いやはや驚天動地の異常事態である。して実感としては客の入りは半減からそれ以下、という惨憺たる部類であった。  それでも、人目を避けるようにして時折ラブホにしけこむ男女アベックの姿がたくましい民草の「民力」を感じさせるのである。むろん、私のような独りラブホのプロからすれば、それぞれのラブホ街に3~5店舗の「定宿」を有しており、その日の気分によって臨機応変に使い分けるのであるが、そんなことに関係なく、えいや直情でコロナをもろともせず眼前のラブホにしけこむアベックは心強いのである。  事程左様に、コロナ禍にあってラブホテルは必死の努力を続けた。中には「ご宿泊の方にマスクサービス」という付加価値を付けているところもあった。すべてのラブホは「密」対策とアルコール消毒をリネン段階で徹底しています、の旨張り紙が乱舞する。そもそもラブホは「密」とは程遠い存在であるし、その秘匿性をある種の売りにしているのであるが、世のご時世が「密」監視であるから、通常行っている当たり前の消毒行為を大に喧伝しなければならないというのは、嗚呼・・・世の無常なるべきか。  歌舞伎町のラブホ状況は宣言解除後の5月下旬、6月を越しておおむね平常に戻りつつある。少なくともA立地のラブホはほぼ平時の情勢を取り戻したと言っても差し支えはない。だが宣言下、各ラブホにはこのような涙ぐましい努力があったことを決して忘れてはならない。そしてこの間、「風営法4号だから」という理由のみを以て、お上から未だに法人200万円の持続化給付が受けられない憲法違反状態が続いていることも、一億総国民は忘れてはならなず、常に満腔の思いで抗議の声を上げていかなければならないのである。  次回、歌舞伎町よりもっと悲惨であった鶯谷の状況を振り返る。
(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数
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