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“親を捨てたい子”が増えている。老親の介護、葬儀は「面倒くさい」

親子

写真はイメージです

人と人の関係性を築けているか?

「どんなことをしてでも自分で親の世話をしたい」は、血縁主義が徹底している中国が突出(87.7%)しているのはわかるとしても、日本(37.9%)は、韓国(57.2%)、米国(51.9%)と比べても低い。半面、「世話は家族や他人に頼みたい」は米中韓と比べてトップとドライな傾向が読み取れる。日本は血縁社会ではなかったのか。 「親子であれ、結局は人間同士の関係性を築けているか――に尽きると思います。これは、会社内とか身近な他人との関係性を想定するとイメージしやすいのですが、『この人にはここまでしてあげたい』って感情は、血が繋がっていようがなかろうが湧き起こるもので、逆に血が繋がっているからといって、関係性を築けなければ『なんで自分がこの人を』となるのは不思議じゃありません。  本来、血縁主義とは、面識がなくても血が繋がっていれば、色々な世話をしたりされたりするものです。日本の家族関係はそういう意味で血縁主義ではないのですが、日本の社会や行政システムは血縁をベースに死後の後始末は家族、親族がするものとなっている。そこに齟齬が生まれているわけです」

人は生きてきたようにしか死ねない

 本書の第一章「親を捨てたい人々」では、ギャンブル、不倫と放蕩の限りを尽くして家族を捨てた父の死を役所から知らされ、当たり前のように遺体の引き取りを投げかけてくる職員に対して激昂する男性や、「あんたなんか産まなきゃよかった」と物心ついた頃から罵倒してきた母に対して、道徳や世間体、なんとなく女性の自分が…ということから介護をするも、葛藤に悩まされる女性などを取り上げている。 「人は生きてきたようにしか死ねない、そんな言葉は本書の取材中、幾度となく頭をよぎりました。毒親に限らず、親の老後の面倒をみるのをためらう子が増えていることについて、冷たい、人でなしという見方もあるかもしれませんが、それだけみんな自分が生きていくことに精一杯で余裕がないともいえます。  それは家族に対してだけでなく、近隣住民など他者に対してもです。コロナになってからも孤独死現場を見ていますが、孤独死のあった部屋の上下左右の住人の方が殺気立っていて、親族はもちろん、遺体処理の業者、マンションの管理組合に対しても敵意をむき出しにしてくるんです。『許さないよ』などと裁判所に訴えるケースも多いですから」  誰もが自分のパーソナルな空間や領域を守ることに固執する無縁社会は確実に広がっている。誰もが当事者たりえる問題であることは、本書を読めばわかってくる。
菅野久美子

菅野久美子氏

<取材・文/スギナミ>
(かんの・くみこ)ノンフィクションライター。最新刊は『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)『孤独死大国 予備軍1000万人のリアル』(双葉社)等。東洋経済オンライン等で孤独死、性に関する記事を執筆中
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家族遺棄社会

子供を捨てる親、親と関わりをもちたくない子供。セルフネグレクトの末の孤独死。放置される遺骨…。孤立・孤独者1000万人の時代。リストラや病気など、ふとしたことでだれもが孤立へと追いやられる可能性がある。この問題を追い続けてきた第一人者が、ふつうの人が突然陥る「家族遺棄社会」の現実をリアルに取材。