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アルコール依存夫の暴力。酒を断った今でも、妻の恐怖心は永久に消えない

「あなたがビールを開ける音を聞くだけで怖い」

「私はあなたがビールを開けるときの音を聞くだけで怖くなる。コンビニで買ってきたつまみやスナックを出す時のガサガサという音を思い出すだけで心臓を鷲掴みにされたような恐怖で身がすくむ」 「大きな声で怒鳴られたこと。次の日になったら何事もないように起きてくること。私がそれで固い表情をしていたら嫌そうな顔をしていたこと。全部思い出す。今でも思い出す」 「あなたにとってアルコールでの加害は過去の話かもしれないけれど、私にとっては現在進行形の話。そんなこと簡単に言わないでほしい」と。  頭をハンマーで殴られたような衝撃でした。それは、僕がTwitterの漫画などでよく見る、アルコール依存症者がいる家庭の子どもやパートナーが言うことと全く同じことでした。  自分はアルコールを減らすことで、攻撃をしなくなることで、もう許されるものだと思っていました。彼女に与えてしまったのは「過去の傷」であって、あとは治癒されるのを待つばかりだと思っていたのです。  しかし違いました。その傷は現在進行形のものでした。僕がお酒を飲んでいる時点で、いつまた同じ加害が起きるかもわからないと、日々恐怖を抱えながら彼女は生きていたのでした。  それでも量は減ったし、前よりはずっと良くなったから、そこで無理に「お酒を飲まないで」とまで言うとまた面倒なことになると思って我慢していたのに、言うにこと欠いて「部屋に閉じこもられるのは、嫌な感じがする」とまで言ったのです。  相手が受けた傷をちゃんと理解して受け止めていたら、絶対に出て来ない言葉でした。

加害者にとっては過去形でも被害者の痛みは現在進行形

 僕は自分が行った加害の重さを本当の意味で理解し、今は飲むとしてもノンアルコール飲料を飲むようになりました。  そもそも、妻との関係がよくなり、相互にケアをできるようになってから、お酒に逃げる必要はなくなっていきました。僕がお酒を「唯一のストレス解消」と言って飲んでいたのは、いつも不安だったからだと今では思います。 「いつまでも昔の話を蒸し返すなよ」という言葉は、実に残酷です。蒸し返しているのは、その痛みが現在進行形だからです。そもそも蒸し返しているのではなく、いま・ここで感じている痛みを伝えているのです。  それをまるで終わったことのように矮小化することは、同じ加害を繰り返すのと同様か、それ以上に卑劣な行為であり、関係を改善したい人間がすることではありません。加害者はその痛みに向き合う責任を持っています。
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モラハラを見抜く・自覚するポイント
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DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか

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