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刺傷事件に続き試験問題流出。共通テストが抱える本質的な問題

1月15・16日に行われた大学入学共通テストで、15日に行われた世界史Bの試験時間中に問題用紙が撮影され、外部に流出する事件が発生。1月27日に、大阪府に住む19歳の女性が「ニュースで報じられている件は私がやりました」と警察に出頭した
鈴木涼美

大学入学共通テストの問題が漏えいしていたとされる事件で、「スカイプ」のダイレクトメールでの高校2年生を名乗る人物と大学生のやりとり。15日に実施された同テストで、「世界史B」の試験時間中に問題用紙を写したとみられる画像も[大学生提供]/時事通信社

これからの成績の話をしよう

 アンキパンに覚えたい文字を写して食べる時間があったら、食パン一枚に書ける文字量くらい暗記できるのでは、というのが子供ながらに持っていた感想で、ひみつ道具事典をひっくり返しても、試験に使える道具というのは結構少ない。  勉強もスポーツもできないいじめられっ子だったからこそ、夢の猫型ロボットがやってきたという設定だったと思うけど、簡単に成績アップや身体改造をしてくれるわけではなく、のび太はできない子のまま、きせかえカメラとかタケコプターとかのんきな道具で遊ぶ。  どこでもドアで恐竜に会いに行くよりは、東大や京大に楽に入れる必殺受験道具のほうが現実的な気もするわけで、好意的に解釈すれば、ドラえもんが生まれる2112年には暗記やカンニングなど小手先の技術がものをいう受験は時代遅れになっているのかも。  今年の大学入学共通テストで、試験時間中に問題用紙を撮影した画像が外部に流出する事件が起きた。共通テストだと知らずに解答を送り返してしまった東大の学生が、不正行為の可能性に気づいて大学入試センターに通報。  調べによれば、高2の女子生徒を名乗る依頼者とは家庭教師の仲介サイトを通じてやり取りし、体験授業の名目で問題を解くことを事前に頼まれていたようだ。後日、流出に関与したとみられる仮面浪人中の19歳女子受験生が警察に出頭した。「上着の袖に隠したスマートフォンで撮影した」などと話しているという。  今年の共通テストはいろいろと波乱に満ちていた。東大前の路上での無差別刺傷事件に受験生2人が巻き込まれたのは記憶に新しい。加えてテスト内容も、数学や生物などを中心に突然難化し、予備校などのまとめでは5教科の平均点が過去最低となったと話題だ。  ただし、ベーシックな学力を問うテストから表現力や判断力を問う方向へ、という名目でセンター試験から共通テストに移行してまだ2年目なので、ことさら難化を強調しても仕方ない気はする。コロナ禍で気もそぞろな上に、入試問題の大転換期に当たった受験生は気の毒だが、何のひねりもない問題で満点を目指すセンター試験よりも、方向性としては面白い。  家庭教師としての適性テストを謳って東大生を騙すなんてよく思いついたと思うが、ドラえもんもびっくりのカンニング手法や技術を駆使した不正グッズは、中国の報道などでもしばしば目にする。韓国では10年以上前に起きた組織的カンニング事件以降、受験会場で全ての電子機器の持ち込みが禁止されたと話題になった。  受験不正がニュースになるのは多くの場合、日本を含む東アジア諸国だが、世界の大学ランキング10位は全て英米の大学だ。大学で学ぶ内容より入学することに意味を見いだす受験偏重のアジアの闇だと言える。この傾向がある限り、カメラ付きメガネや衣服に内蔵した受信機など、技術と取り締まりのいたちごっこは続くだろう。  監視体制を強化するよりは、入試よりも授業や卒業試験を重視する方向に移行する良い契機だと思うが、高校生が大学入試のことを考え、大学生が就活のことを考える文化はそう簡単には変わらないのだろうか。 ※週刊SPA!2月1日発売号より
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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