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『鎌倉殿の13人』陰湿な殺し合いとコミカルな会話が共存する三谷作品の妙とは

主要登場人物がいきなり暗殺される

鎌倉殿の13人

公式ホームページより

 三谷幸喜氏(60)が脚本を書いているNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の好調が続いている。2月6日に第5話が終了した時点での世帯視聴率の平均値は約14.6%(同個人約8.8%)。前作『青天を衝け』の終盤5話の平均値を2.7%(同1.8%)上回っている(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。高い水準だ。  物語は最初のヤマ場を迎えている。源頼朝(大泉洋)の軍勢が石橋山の戦いで平家方の大庭景親(国村隼)の軍勢に敗れた後、主人公・北条義時(小栗旬)の兄・宗時(片岡愛之助)が暗殺された。  宗時の死については諸説ある。「戦で死んだ」との説も有力である。  けれど『源平盛衰記』など数々の史書を参考とし、創価大学・坂井孝一教授ら3人の歴史学者が監修するこの物語は「暗殺説」を採用した。意外や暗殺者は武士ではなかった。平家方・伊東祐親(浅野和之)の館で雑事に従事する善児(梶原善)だった。下人だ。  善児は第1話では頼朝と祐親の娘・八重(新垣結衣)の子供である千鶴丸も殺している。どちらも祐親の命を受けてのこと。祐親に言われたことなら何だってやる男らしい。  宗時の死の描き方はこれまでの大河とは一線を画した。最期の言葉を残さず、本人は何が起こったのかさえ分からず、序盤の主要登場人物の1人でありながら、あっけなく絶命した。長澤まさみ(34)の語りも淡々としていた。 「北条をここまで引っ張って来た宗時が死んだ」  もちろん意図した演出だろう。三谷氏が青春期に観たであろうアメリカンニューシネマや故・市川崑監督と故・萩原健一さんによる時代劇『股旅』(1973年)を思い起こした人もいるのではないか。どちらも若者の死が、あっさりと描かれた。

大河ドラマで群像劇は成立するのか?

 宗時の死の描写に限らず、この大河は目新しい。まず1人の英雄伝にしなかった。三谷氏自身、製作発表の場などで「(この大河は)群像劇」と強調している。  過去の大河のほとんどは、たった1人の英雄を中心に物語が進む。すると、その主人公にばかりスポットライトがあたるので、ほかの登場人物を生かし切るのが難しい。物語が単調になってしまう。 『鎌倉殿の13人』は違う。まず主人公の義時は現時点では英雄からほど遠い。また、頼朝やその妻で義時の姉・政子(小池栄子)、義時の父・時政(坂東彌十郎、65)、時政の妻・りく(宮沢りえ)、頼朝の最初の妻・八重らにそれぞれ見せ場がある。みな生き生きして見える。確かに群像劇である。
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かつてなく“頼りない”主人公
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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