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映画監督がパワハラを犯した過去を告白「人格を否定するような罵倒をしていました」

演出部にパワハラを指摘されハッとした

映画業界――『アナザー Another』『クローバー』での問題に移らせてください。これらの現場で古澤監督は決してスタッフを怒鳴ったわけではありません。しかし、上の立場の人間が不機嫌な態度を隠さないというのは紛れもなくパワハラに該当すると思います。 古澤:『アナザー Another』のときは演出部と意見の対立があったんです。「じゃあ、いいアイデアがあるなら出してくれよ」と言いながら、無言で応答しないといういやがらせをしてしまいました。 そして、別の場面で意見を求められても意図的に黙り込んでしまったんです。『クローバー』のときも、現場がまわっていないときに「俺がやりたいこと、なんで分からないの?」と言ったきり黙り込んでしまった。 ――『アナザー Another』『クローバー』は、これまでの作品と比べても予算が大きいですよね。スケジュールにも比較的余裕があったと思います。それなのになぜ、スタッフを攻撃してしまったんですか? 古澤:何よりも僕の資質の問題です。演出をするのが仕事であるのに、「監督」というポジションに甘えてすがっていたんだと思います。また、ハラスメントへの無知もあったと思います。『クローバー』では演出部から怒られました。「それはハラスメントです。言ってくれないと、自分たちは動けません」と言われて、はっとしました。 ――異性の体に触れるとか、暴言、暴力は多くの人がハラスメントとして認知していると思います。でも、逆をいえば「そうじゃなきゃハラスメントではない」という思い込みもある。 古澤:人を場の空気のために「駒」とみなすことは、何であれハラスメントだと思います。僕がやっていた無言の圧力だって、相手を駒だと思っているからこその行為でした。

「自分を正当化していました」

――ご自身のハラスメントを自覚できるようになったのはいつからですか? 古澤:黒沢清監督の現場を知っていたので、ああなれなかった自分にずっと違和感を覚えていました。他の監督の現場で照明部に殴られたこともありましたので、そういうことはなくしたいとも思っていました。 でも、いざ自分が怒鳴ってしまったりすると「時間のないあの現場で怒鳴ってしまうのは仕方ない」と、自分を正当化していました。演出力がないまま、自分が監督デビューできたこともよくなかったんだと思います。未熟な人間が監督を名乗ってしまったから、スタッフを傷つけてしまった。ずっと自覚しているつもりでしたが、深田晃司監督の発言などに触れる中で過去の行いを振り返るようになりました。
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手本にしたかった黒沢清監督の現場
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1984年生。京都府在住。かつて勤めていた劇場でパワハラ被害に遭い、日本の映像業界のあり方に疑問を持ち始める。以前は映画ライターとして活動していたものの、現在は業界に見切りをつけ、ボードゲームとヒップホップの取材を続けている。

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