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映画監督がパワハラを犯した過去を告白「人格を否定するような罵倒をしていました」

手本にしたかった黒沢清監督の現場

映画業界――古澤監督が手本にしたかったという、黒沢清監督の現場は何が違ったんですか? 古澤:僕は映画美学校卒業したてで黒沢監督の『回路』(1999)に見習い助監督でついたんですが、制作会社のツインズジャパンから提示された報酬は月25万円だったんです。それは、僕が助監督として入った現場で最高額でした。見習いであろうとスタッフの生活がきちんと成立する予算組みがされていたんだと後から理解しました。 あと、黒沢監督は必ず打ち合わせの段階で複数のどれも面白い演出プランを持って来るんです。スタッフがAプランが無理だと言っても、同じくらい面白いBプランをすぐ提案できる。だから、みんなが妥協じゃなく、本当に面白いことのために働けているんです。 ここでスタッフに無理を強いるAプランに固執し、プロデューサーが監督の肩を持ってしまうと、現場はどんどん過酷になっていく。 ――他の現場ではそんなに報酬が出ることはないんですか? 古澤:別の現場で助監督をしたときは月給7万円とかでした。

俳優を追い込んで演技が良くなることなんてありえない

古澤監督へのインタビューの前日、5年前に配信されていた動画がSNSで大きな批判を集めていた。それはある映画の撮影時、迫真の表情を引き出すため、子役を本気で暴行したメイキング映像だった。 古澤:俳優を追い込んで演技が良くなることなんて絶対にないですね。もしもそんなことを信じている人がいるのだとすれば、演出プランが失敗しているだけです。ハラスメントと演出が一体化しているというか。いや、ハラスメントどころか暴力や犯罪になっているケースもある。 でも、そんな演出を「良い」とする風潮も残っているんですよ。僕も「もっと厳しく叱ってください」と俳優から言われたことがありますし。そういう人たちは「厳しいからこそ映画なんだ」と思っているのかもしれません。僕はそれがいい演技につながるとは思えないのですが。
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スパルタ演出が美化されてしまう理由
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1984年生。京都府在住。かつて勤めていた劇場でパワハラ被害に遭い、日本の映像業界のあり方に疑問を持ち始める。以前は映画ライターとして活動していたものの、現在は業界に見切りをつけ、ボードゲームとヒップホップの取材を続けている。

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