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映画監督がパワハラを犯した過去を告白「人格を否定するような罵倒をしていました」

スパルタ演出が美化されてしまう理由

パワハラ――作品の成功により、スパルタ演出が美化されてしまうケースもあります。 古澤:語り草にしやすいんだと思うんですよ。スパルタな現場じゃなくても、いい映画や演劇なんてたくさんあるじゃないですか。そういう穏やかな現場って語りにくい。「暴力的でひどい現場だけど、みんなで乗り越えました」という話の方が、価値があるようにみんな錯覚してしまう。「努力は報われた」みたいな物語にすり替わってしまうんですよね。 でも、俳優が選び取ったわけでもない表現を、映像で残すのは騙し討ちです。『童貞。をプロデュース』(※)の事件もそうです。僕は当時、最初の上映の会場にいたし、打ち上げにも行きました。僕を含めて周囲の誰もが、演出の問題には気づけずに、「出演者の人間的成長」という「美談」にすりかえていました。 被害者の方は自分が受けた痛みを周囲にまともに受け止めてもらえないという二次加害にさらされてしまったのだと思います。彼なりに空気を壊さないように抗議をしても、それを周りが「またまたあ」って。そうしているうちに、問題はどんどん悪化したんだと思います。 (※注釈:松江哲明監督の2007年公開作。作中で男性出演者が無理やりAVの撮影現場に連れていかれ、性的な行為を強要された。その映像は本編でも使用された。初公開から10年後、上映イベントの舞台挨拶で被害者が関係者を告発。大きな波紋を呼んだ)

「俺の映画に出してやる」と俳優を誘う監督に思うこと

――映像業界でのセクシャルハラスメント、性的搾取も大問題になっています。「自分と親しくすれば映画に出してあげる」と言って、女性の俳優たちを性行為に誘う映画関係者もいます。監督と俳優の距離が近づきやすい、ワークショップのあり方にも疑問が持たれるようになりました。 古澤:商業映画で、監督1人がキャスティング権を持つなんてありえないですよ。僕も飲み屋で俳優から「映画に出してください」とよく言われるんです。でも、「そんなこと言われても何にもできない」と拒んできました。ワークショップで監督と会うのも同じこと。僕のワークショップでは俳優たちに「監督の言うことを聞くのが俳優の仕事じゃない。表現者として自立して、監督やプロデューサーに媚びない自分の表現を見つけてください、そしてそれをアピールするためのコミュニケーション能力を磨いてください」と伝えています。 監督が「俺の映画に出してやる」と言って俳優を誘うのは、非常に卑劣であると同時に、俳優の仕事を軽んじていると思いますね。
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ハラスメントを予防するために
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1984年生。京都府在住。かつて勤めていた劇場でパワハラ被害に遭い、日本の映像業界のあり方に疑問を持ち始める。以前は映画ライターとして活動していたものの、現在は業界に見切りをつけ、ボードゲームとヒップホップの取材を続けている。

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