更新日:2022年09月26日 18:21
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全身が動かなくなる難病ALSに、初の治療法。「自力で寝返りを打てた」例も

培養上清治療で8人中3人に効果が

「私たちの研究クループは、2021年1月から8名のALS患者さんの培養上清治療を行いました。年齢は42歳から81歳で、重症度は1~5とさまざまな症例が対象になっています。 治療内容は、培養上清の週1回、計8回の点滴投与を基本に、2~3か月間にわたる治療が行われました。その結果、2名で症状の著明な改善がみられ、3名で症状の進行を止めることができました。残念ながら残りの3名では症状の進行を止めることができませんでした。 これまで、症状の進行を止めたり、改善したりすることができなかったALSが、培養上清による治療で8名中5名に効果が得られたことは、不治の病と考えられてきたALSの患者さんやご家族にとって朗報と言えます」  そう語る上田氏に、効果のあったひとりのALS患者の具体的な治療の内容を紹介してもらった。

自力で寝返りを打てるようになった46歳女性

 患者さんは46歳の女性で、2019年11月頃より左半身に違和感を感じていたが、2020年7月になると歩行時に手足の筋肉の衰えと運動障害を自覚するようになった。そこで翌年11月に某大学病院を受診したところALSと診断された。患者さんは2022年1月に発表された、培養上清によるALSの治療報道を知って上田氏のクリニックを受診したという。 「初診時、意識は清明で高次脳機能障害はありませんでしたが、ときに言葉がうまく話せないことがあるためコミュニケーション・ボードを用いて意思疎通をはかりました。視診では舌の萎縮、線維束性攣縮を認め、一部の腕の筋肉で腱反射の亢進がみられました。血液検査、呼吸機能の異常はみとめられませんでした。  クリニックでは乳歯幹細胞由来の培養上清の点滴を週1回行いました。 治療前は、自立した生活がまったくできない全介助状態でした。しかし点滴治療開始後、月を追うごとに症状は改善し、患者さんの自覚症状もしだいに変化していきました。 ドクターの質問に、点滴開始すぐに腕が動かしやすくなった、筋力が増した気がする、飲み込むのが容易になり、トロミ食から通常食が食べられるようになったと答え、点滴治療5回目以降には自力での寝返りができるようになり、うつ伏せになったときに左足膝を立てることができ、さらに介助してもらえば座位、立位保持ができやすくなったと回答しています」
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ALS以外の難病にも有望
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医学博士。専門分野は再生医療・顎顔面外科。 1949年生まれ。1982年名古屋大学医学部大学院卒業後、名古屋大学医学部口腔外科学教室入局。同教室講師、助教授を歴任し、1990年よりスウェーデン・イエテボリ大学とスイス・チューリッヒ大学に留学。1994年名古屋大学医学部教授就任、2003年から2008年、東京大学医科学研究所客員教授併任。2011年よりノルウェー・ベルゲン大学客員教授。2015年名古屋大学医学部名誉教授就任。日本再生医療学会顧問、日本炎症再生医学会名誉会員として再生医療の研究と臨床の指導にあたる。株式会社再生医学研究所代表。近著に『改訂版・驚異の再生医療

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