ALS患者・関係者が選ぶ「ベスト・オブ・アイス・バケツ・チャレンジ」
フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグに、ビル・ゲイツ、レディー・ガガ、スティーブン・スピルバーグ、ネイマール、イタリアのレンツィ首相、マー君、孫正義社長、ロンブーの田村淳、くまモン……並べればキリがないのだが、彼らを結び付けているのはご存じ「アイス・バケツ・チャレンジ」。発症すると徐々に手足が動かなくなる難病「ALS」(筋萎縮性側索硬化症)患者たちの支援を目的に、アメリカで始まったチャリティー・イベントだ。
“チャレンジャー”はバケツ一杯の氷水をかぶるか、ALS患者支援のために100ドル寄付するかを選択してから次なるチャレンジャーを3人指名するため、チャリティーの輪は3倍速で広まっていく。結果、今や知らない人がいないほどのイベントに大発展したのだが、これまたご存じのように批判的な意見も渦巻いている……。「何が面白いのか?」「売名行為でやっているだけでは?」「カルフォルニアは水不足なのに……」といった意見だ。
これに対して、週刊SPA!9/2号では「ALS患者たちの声なきメッセージ」と題して、当のALS患者たちがどのようにアイス・バケツ・チャレンジを見ているかを紹介。詳しくは誌面を見てほしいが、結論だけ言ってしまうと、ALS患者たちは大歓迎していたのだ。
’10年にALSを発症し、声まで失ってしまった半生を『99%ありがとう』(ポプラ社)に綴っている藤田正裕氏(35)は「ALSが売名行為をさせてもらっていることに気づいてほしい」とSPA!にメッセージを寄せてくれた。
同じくALS患者で「ALS FRIENDS JAPAN」という患者たちのコミュニティの代表を務めている河田哲郎氏(36)は、「新薬が完成した際の早期臨床実用化はすべての難病と闘う方たちが求めていること。それを前進させる可能性がアイス・バケツ・チャレンジにはあります」とメッセージを寄せ、ALSに限らずあらゆる難病患者支援などに取り組むとしてアイス・バケツ・チャレンジを辞退した武井壮らの気持ちも汲んだ。
「重要なのはバトンを繋げていくこと」
こう藤田氏が言うように、氷水をかぶるか否かは別にして、その目的はALSをはじめとした難病支援の輪を広げていくことにある。なにせ、ALSには特効薬も治療法もない。病状が進行して自発呼吸ができなくなると、人工呼吸器頼み。その状態でも生き続けることは可能だが、家族への精神・肉体・経済的負担に思いを巡らせ、死を選択してしまう患者も少なくないのだ。
すでに世界で70億円もの寄付金が集まっているが、一時的なブームで終わってしまっては意味がない。この支援の輪を途切れさせることなく、難病治療の研究を前進させることがすべての難病患者の願いなのだ。
「その意味で、京大iPS研究所の山中伸弥教授がアイス・バケツ・チャレンジをやってくれたことは本当にうれしいです。iPS研究所の先生たちは、ALS患者たちにとって希望ですから。iPS細胞を使ったALSの治療法を研究されており、ALSを発症したマウスにiPS細胞を移植して症状の進行を遅らせることに成功しています。山中教授が氷水をかぶってくださった動画を拝見して、『ALSのことを考えてくれて、本当にありがたい』と思いました」
⇒【動画】「山中教授のアイス・バケツ・チャレンジ」http://www.youtube.com/watch?v=h8SxIN2ILsQ
こう話すのは日本ALS協会事務局長の金澤公明氏。ALS患者のメンタルサポートやコミュニケーション支援機器の貸し出しなどを行っている同協会には、山中教授が2つの桶で氷水をかぶる動画がアップされた翌日の8月18日から、「寄付したいが、振込先がわからない」という問い合わせが殺到。そのため、東日本大震災のときに開いた募金口座を、今回の寄付口座に代用する形で対応したのだとか。 もちろん、山中教授一人の力で支援の輪が広がったわけではないが、難病治療に携わるノーベル賞受賞者の“チャレンジ”はALSに関わる人たちを大いに勇気づけたようだ。 一方、洒落た演出でALS患者たちから注目を集めたのはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツだ。 「少ない力で氷水をかぶるための機械を自作したのは、さすがだなと思いました。ALSは症状が進行すると手足が動かなくなっていきます。そんなALS患者に近い立場で氷水をかぶって見せたのだと思います」(河田氏) ⇒【動画】「ビル・ゲイツのアイス・バケツ・チャレンジ」http://www.youtube.com/watch?v=XS6ysDFTbLU
そんな意図があったのかどうかは定かでないが、ビル・ゲイツのチャレンジ動画は実に凝っている。マーク・ザッカーバーグが自分を指名する動画をマイクロソフトの「Surface」で見るところから始まり、中盤では自らバーナー片手にアイス・バケツ・チャレンジ専用マシンを自作。自社製品のCMを紛れ込ませながらも、茶目っ気たっぷりの動画を作り上げているのだ。 ちなみに、マイクロソフトは今年のスーパーボウル(NFL王座決定戦)向けのCMに、元NFL選手でALS患者のスティーブ・グリーソン氏を起用している。同氏が「Surface」とアイトラッッキングシステム(目線で文字入力する機器)を利用して家族とコミュニケーションを図っている様子をCMにし、マイクロソフトのテクノロジーが医療分野でも活用されていることをアピールしたのだ。こうした取り組みを踏まえて、ビル・ゲイツ流アイス・バケツ・チャレンジを見直せば、強いメッセージ性を感じずにはいられない。 このように、あまたの著名人がアイス・バケツ・チャレンジに挑戦しているのだが、忘れてならないのはALS患者自身も氷水をかぶっているという事実。藤田氏は「皆さんのチャレンジ動画に毎回感動しています。本当にどれも素晴らしい動画ですが、中でもALS患者や家族がALSに拷問され、殺された方々からのくやしさ溢れるメッセージは印象的です」と話すのだ。 その一例は、6分50秒にもなるアンソニー・カルバハルの動画。冒頭こそ、女装した男性によるふざけた動画にしか見えないのだが……開始2分でアンソニーの表情は一変。祖母、母親もALSを発症した“ALSの家系”で、ついに5か月前に自身もALSと診断されたことを告白し、号泣するのだ。言葉をすべて理解できずとも、見入ってしまうだろう。 ⇒【動画】「アンソニーのアイス・バケツ・チャレンジ」http://www.youtube.com/watch?v=h07OT8p8Oik
ちなみに、藤田氏もアイス・バケツ・チャレンジに挑戦しているのだが、気管切開しているため、肺に水が入ったりしないよう危機管理を徹底したうえでのチャレンジだった様子。今後も支援の輪を広げていくために多くの人に挑戦してもらいたいところだが……くれぐれも無茶だけはしないように気を付けてもらいたい! ⇒【動画】「藤田氏のアイス・バケツ・チャレンジ」http://www.youtube.com/watch?v=pDDyCONet8o
<取材・文/池垣 完(本誌)>
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