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ネオコンの挑発が米中戦争を引き起こす<元外交官・東郷和彦氏>

―[月刊日本]―

ターニングポイントはクリミア攻撃

アメリカ

写真はイメージです

―― ロシアがウクライナに軍事侵攻を始めてから9か月がたとうとしています。戦争は完全に泥沼化しており、停戦の兆しは見られません。東郷さんは先日『プーチンVS.バイデン』を刊行しましたが、現在の状況をどのように見ていますか。 東郷和彦氏(以下、東郷) 戦争が始まって以来、事態は刻々と変化していますが、まずは最近の動きを押さえておきたいと思います。  8月に入り、戦争は新たな局面を迎えました。ターニングポイントになったのは、8月9日にクリミア半島のロシア空軍基地が攻撃されたことです。ウクライナ側は当初、自分たちはこの攻撃に関与していないと主張していましたが、9月7日になってミサイル攻撃したことを認めました。  ウクライナのゼレンスキー大統領は、以前からクリミア奪還の意思を繰り返し示してきました。確かにクリミアは2014年にロシアが併合するまでウクライナの領土でした。そのため、ゼレンスキーがクリミアは自分たちのものだと主張するのは当然です。しかし、歴史的に見れば、もともとクリミアはロシアに属しており、それゆえロシアのクリミア併合はクリミアを含む全ロシアの人々から熱狂的な支持を受けたのです。  また、ウクライナがクリミアを奪還するということは、クリミアをはじめロシアが占領するすべての領土からロシアを追い出すことを意味します。これは即ち、ウクライナの完勝、ロシアの完敗ということです。プーチン大統領がそれを認めることは絶対にありません。  ウクライナはその後、ロシアが制圧していたハリコフ州での戦闘を有利に進め、9月10日に要衝のイジュームを奪還しました。同18日、ゼレンスキーはロシアに奪われた領土を取り戻すため、戦闘態勢を緩めることはないと改めて表明しました。  こうした動きを受けて、ロシア側は対抗措置に出ます。まず、9月21日に部分動員令を発動して約30万人の予備役招集に動きました。これについて、プーチンは国民向けの演説で、ロシアの主権と安全保障、領土の一体性を守るための緊急措置だと説明しました。しかし、若者などによる抗議デモが起きたり、動員逃れのために海外渡航するような動きが出るなど、混乱が見られました。  その後、ロシアは9月23日からルガンスク、ドネツク、ザポロジエ、ヘルソンの4州でロシアへの編入を問う住民投票を行い、9月30日に併合手続きを完了しました。これは要するに、プーチンはこの4州で暮らすロシア系住民の保護に全責任を持つということです。  これでプーチンがこの一線から引くことは難しくなりました。しかし、いまのゼレンスキーがそれを認めることはないので、事態はさらに深刻化していくと予想されます。

ロシアとイランの接近

―― もともとロシアが始めた軍事侵攻だったはずなのに、日本の報道を見る限り、ロシアは劣勢に立たされています。10月8日にはロシアとクリミア半島をつなぐクリミア大橋が爆破されました。 東郷 これはロシアにとって絶対に看過できないものです。プーチンは対抗措置として、10月10日からウクライナ全土に向けて大規模なミサイル攻撃を始めました。10月14日の記者会見で「現時点ではさらなる対抗措置は必要ない」と述べたものの、その後もミサイル攻撃を続けています。  ロシアの当面の狙いは、発電所や給水塔などの生活インフラのようです。これらが破壊されれば、これから冬を迎えるウクライナの人々の生活は苦しくなるので、それによってウクライナの戦闘意欲を削ごうとしているように見えます。  ロシアはウクライナを攻撃するにあたって自爆ドローンも活用しています。このドローンはイランが提供したものだとされています。ドローンはミサイルなどと比べると非常に安価なので、ロシアからすれば費用対効果が良いわけです。また、イランがロシアに弾道ミサイルを供与するとの報道もあります。  ロシアとイランはともにアメリカと敵対しているので、両国間の協力は「敵の敵は味方」という観点からよくわかります。アメリカはイランを批判していますが、そもそもアメリカはイランで革命が起こって以来、イランに対して厳しい姿勢で臨んできました。一方で制裁を加えておきながら、「ロシアと手を切れ」と言ったところで、イランがそれに従うはずがありません。  アメリカとイランの核合意が機能していれば、イランもアメリカとの関係悪化を懸念し、ロシアと接近することに慎重になったかもしれません。しかし、トランプ前大統領が核合意から離脱してしまったので、イランにはアメリカに遠慮する理由はなくなりました。  もう一つ注目すべきは、ロシアで新たな総司令官として空軍・宇宙軍のスロビキンが任命されたことです。10月18日に彼は「最も難しい決断を排除しない」と発言しましたが、その翌日、併合された4州に戒厳令が布告されました。さらに、プーチンは必要な物資の調達などを迅速化するための「調整会議」を新たに設置し、10月25日に初会合を開きました。きめ細かい軍事支援を行うことが狙いと見られています。  ロシアが各地の戦線で厳しい状況に立たされていることは確かです。11月11日にはロシアが併合していたヘルソン州の州都ヘルソンからロシア兵を撤退させています。 しかし、ロシアがこれで諦めるとは思いません。一時的に撤退したあと、巻き返しを図っていることは確実です。  また、ウクライナと近隣のヨーロッパ諸国では線路の幅が違います。そのため、ウクライナに武器などを送る際には台車の交換が必要です。一部専門家たちはプーチンがここを狙うのではないかと指摘しています。
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中国を挑発するネオコンとバイデンの危うさ
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げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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月刊日本2022年12月号

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