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「私はなぜ国葬欠席を表明したか。政治家が国を憂えなくなったらおしまい」<自民党衆院議員・村上誠一郎氏>

一番の問題は内閣人事局

―― 佐藤栄作元総理の国葬が議論された際は、内閣法制局が「法的根拠が明確でない」と主張したことが一因となり、国葬は断念されたと言われています。いまの官界にはこうした官僚は見当たりません。 村上 昔の官僚の皆さんは相手が大臣であろうと総理であろうと、自分の守備範囲に関しては全責任を持って是は是、非は非と唱えていました。私の地元の愛媛県には檜垣徳太郎氏という農林省事務次官を務めたのちに参議院議員になった方がいました。檜垣氏は課長時代、誰もが恐れる河野一郎農林大臣に対して臆することなく物申すことで知られていました。  また、私の伯父で大蔵省事務次官を務めた村上孝太郎は主計局長のころ、「日本の財政をこのまま放置すると大変なことになる」と財政硬直化キャンペーンを行い、時の佐藤栄作総理に直訴しています。私がもっと驚いたのは、予算委員会での立ち居振る舞いです。通常、総理が予算委員会で答弁する時、官僚はそばにかがみ込み、ペーパーを使って答弁のポイントを説明します。ところが、伯父は佐藤総理のそばに突っ立たまま、自分がかけていた眼鏡の柄を使ってペーパーを指し示しながら説明していたのです。  政治家たちは官僚たちを受け入れ、官僚の主張にきちんと耳を傾けていたのです。政治家は官僚が毎晩1時2時まで働いているのを知っているので、彼らに対し尊敬の念を持っていました。官僚もまた政治家が選挙で大変な苦労をしていることを知っていたから、やはり尊敬の念を持っていました。お互いリスペクトしていたのです。  この関係を破壊してしまったのが内閣人事局です。これが一番の問題です。私は肉親や先輩、後輩に役人がいるからよくわかるのですが、官僚は人事で押さえつけられると、正論も本音も言えなくなってしまいます。一度でも出世コースから外れてしまうと、二度とそのラインに戻れないからです。だから内心では政治家の言うことに承服できないと思っていても、今後の仕事のことを考えて妥協せざるを得なくなるわけです。これでは官僚が正論も本音も言えなくなるのは無理もありません。  しかも、いまの官僚は一生懸命働いているのに給料は安く、退職後は天下りもなく、何かあるとすぐに政治家やマスコミなどからバッシングされます。こんな仕事に誰が就こうと思うでしょうか。かつては東大から官僚になる人がたくさんいましたが、最近は外資系企業への志望者が増えています。霞が関にも優秀な人材が集まらなくなっているということです。このままいけば、私たちの世代がいなくなったころ、永田町も霞が関も完全に機能不全に陥っている可能性があります。

国を憂えない政治家はいらない

―― 自民党には多くの問題がありますが、野党にも期待はできません。どうすれば現状を打開できますか。 村上 与党も野党も人材が枯渇していることは間違いありません。公認をもらってポストを獲得し、政治資金を確保すれば政治を行っていると考えている議員が多いと思います。政治家が国を憂えなくなればおしまいです。  私は最近、三島由紀夫氏の先見性を再認識しています。三島氏は1969年に東大駒場キャンパスで全共闘と公開討論を行っています。東大生たちは若さもあって言いたい放題ですが、それに対して三島氏は一つ一つ丁寧に対応しています。単刀直入に言えば、三島氏と学生たちの議論のほうが、いま国会で行われている論議よりも真摯な議論だと思います。  また、三島氏は自死する前に「果たし得ていない約束」(昭和45年7月7日 サンケイ新聞夕刊)というエッセイを書き、このままでは日本がなくなってしまうと警告を発した上で、最後に「それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである」と記しています。私も同様です。  とはいえ、日本がこのまま衰退していくことを、何もせず黙って見ているわけにはいきません。私のところには与野党の議員たちから「若手を集めるので勉強会を開いてくれないか」という申し入れがきています。国会議員の中には国を憂いている人はいるはずです。そこで、私は与野党や左右党派を超えて議員の皆さんに声をかけ、勉強会を開こうと考えています。それを通して「公の精神」や「青年の矜持」を次の世代に伝えていきたいと思います。この取り組みは次の世代、日本のために役立つと信じています。  (8月31日 聞き手・構成 中村友哉) 初出:月刊日本10月号
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2022年10月号

特集①与野党を解党して、政界を再編すべし!
特集②国交正常化50年 日中関係改善に乗り出せ

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