更新日:2023年08月30日 17:17
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五輪汚職、逮捕の高橋容疑者と森喜朗の蜜月関係…「空白の48日」と突然増えた「1つの枠」

今回逮捕された企業トップたちの「共通点」

五輪汚職

ジャーナリスト・上杉隆氏

 8月17日、東京地検特捜部は大手広告代理店「電通」の元専務で組織委の理事だったコンサルティング会社「コモンズ」代表・高橋治之容疑者と、紳士服大手「AOKIホールディングス」前会長の青木拡憲容疑者らを逮捕した。検察報道で定評のある『読売新聞』が7月20日付朝刊の一面トップでスクープした内容と相違なく、この記事が戦後最大級の汚職事件が動きだす号砲となった格好だ。  その後、特捜は出版大手KADOKAWAや、電通時代の高橋の後輩がトップを務めるコンサルタント会社「コモンズ2」、広告会社「大広」の関係者を次々と逮捕。これまでに検挙されたのは9人に上り、すべてが大会スポンサーの選定を巡る贈収賄での容疑となっている。9月7日にも五輪で駐車場運営などを手がけた駐車場サービス大手「パーク24」の本社に家宅捜索が入ったが、特捜が事情聴取した関係者はすでに3ケタを超えていると思われ、事件が今後も拡大するのは間違いないだろう(※追記:本稿執筆後の10月19日にはADKホールディングスの社長ら3人が新たに贈賄の疑いで逮捕された)。  組織委員会の会長や理事は「みなし公務員」と規定されている。そのため特捜は、高橋が2017年9月から顧問契約を交わしていたAOKIから、便宜を図った見返りに2億8000万円強の金を受け取ったと見て逮捕に踏み切った。KADOKAWAについても、組織委に対する働きかけの謝礼として高橋に約6900万円の資金が流れたとして捜査を進めていたが、『産経新聞』が9月1日付朝刊で独自スクープを出す。AOKIの前会長・青木拡憲氏が供述のなかで、がんを治療中の森喜朗元組織委会長に対し「見舞い金」の名目で「200万円を手渡した」と、初めて森氏の関与を公に認めたというのだ。  東京五輪のスポンサー企業は、IOC(国際オリンピック委員会)と契約しているワールドオリンピックパートナーを除くと3つの階層に別れているが、今回逮捕されたのは最後に設けられた枠。協賛金が「10億円程度」と言われるオフィシャルサポーターを務めた企業トップの面々だった。 五輪汚職

高橋容疑者は虎の威を借りた「裸の王様」だ

「日本のスポーツビジネスを変えた男」  一連の五輪汚職事件の中心人物と目される高橋は、電通時代に培った実績から業界内でそう呼ばれていた。そんな高橋が持つ幅広い人脈と強引に物事を進める辣腕を期待したのだろう。歴史に名を刻む一大国家プロジェクトに一枚噛もうと魑魅魍魎が高橋に群がった。  しかし、高橋は大物フィクサーを気取った「裸の王様」にすぎない。今回の汚職事件のスキームは、五輪スポンサーから漏れた企業側が採用枠の拡大とその参画を求めて、賄賂を贈って高橋は口利きを依頼するという極めて単純な贈収賄の構図だからだ。  それにしても、なぜ高橋は「裸の王様」のまま君臨しえたのか? それは、「スポーツ界の首領」・森喜朗元首相という虎の威を借りていたからにほかならない。実際、今回の捜査でも、高橋がAOKIやKADOKAWA側と会合を持った際、森氏も同席していたことから参考人として特捜から複数回の事情聴取を受けている。  高橋は電通時代の’77年、「サッカーの王様」・ペレの引退試合の興行で大成功を収めると、後にFIFA(国際サッカー連盟)会長となるゼップ・ブラッター(第8代会長・1998~2015年在任)と刎頸の友となり、これを足掛かりに世界のスポーツ界の重要人物と太いパイプを築いてきた。そして、五輪の商業化の契機となった’84年のロス大会でビジネスとして初めて五輪に関わることになる。のちに、日本体育協会の首領としてスポーツ界で絶大な力を持つ森氏と結びついていくのは必然だったのかもしれない。  元東京都議会自民党幹事長代行で、東京都議会オリンピック・パラリンピック招致議員連盟事務局長を務めた鈴木隆道氏が話す。 「高橋さんが東京五輪に関与するようになったきっかけは、安倍晋三元首相の紹介だったと記憶している。彼は’14年1月に組織委が発足する1年半以上前からメンバーに入りたくて、森さんやJOC(日本オリンピック委員会)会長の竹田恒和さんと頻繁に会っていた。だが、招致での彼の強引なロビイングぶりを耳にしていたので、組織委の最初の理事会でこちらからお断りしたんです。森さんにも直接『ダメですよ、高橋は』と進言したけれど、『アイツは使えるんだよ。俺の気持ちがわかるから』と大変かわいがっていました」
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「空白の48日」の間にブラックボックス化した
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週刊SPA!10/25号(10/18発売)

表紙の人/ 宇垣美里

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