スポーツ

「アントニオ猪木の後継者」を巡る因縁…当事者が対峙した1986年の凄惨マッチ

頭部への蹴りで鼓膜が破れた坂口が暴走

 試合開始。序盤から顎や耳へのハイキックを連発していく前田。すると坂口はロープに張りつけてのミドルキックで反撃。さらに前田のワキ固めは力で極められるのを阻止、アキレス腱固めには、そのまま立ち上がってトーホールドで切り返し、柔道殺法の腕ひしぎ十字固めで極めにいく。  前田は関節技に応じつつも、「反骨の剣」と形容されたキックで坂口を追い込む。特に顔面へのハイキックが強烈である。  前田の頭部への蹴りで鼓膜が破れた坂口はここで暴走する。なんと前田をコーナーに逆さ吊りにすると顔面を踏みつけて、レフェリーに暴行を働き反則負け。試合後も両者はセコンドが制止しても乱闘を続け、2人の遺恨はさらに深まったのである。

背景には新日本内の派閥争いも…

 坂口は後に前田戦をこう振り返っている。 「俺は、ああいうUWF的な試合は好きじゃないな。キックなんか一歩間違えたらKOされちゃうから、どうしても構えてギクシャクした試合になっちゃうよ。それが観ている人間には面白いのかもしれないけどな。まあ、昔のレスラーは何が来ても大丈夫なように常に準備していたよ」(小佐野景浩『プロレス秘史 1972‐1999』(徳間書店)』  どこまでもすれ違いの人生を歩む2人。前田はこの1年後、長州力の顔面を蹴り上げたことが問題視され、新日本を離れた。  互いのイデオロギーを賭けて衝突した喧嘩マッチは、因縁や怨念だけではなく、新日本の源流や派閥争いといった複雑な背景も組み合わさった大河の流れを感じる闘いだったのである。
プロレスやエンタメを中心にさまざまなジャンルの記事を執筆。2019年からなんば紅鶴にて「プロレストーキング・ブルース」を開催するほか、ブログnoteなどで情報発信を続ける。著書に『俺達が愛するプロレスラー劇場Vol.1』『俺達が愛するプロレスラー劇場Vol.2』『インディペンデント・ブルース』(Twitterアカウント:@jumpwith44
1
2
プロレス喧嘩マッチ伝説~あの不穏試合はなぜ生まれたのか?~

プロレス史に残る65の喧嘩マッチを考察、その衝撃の舞台裏に迫る!

【関連キーワードから記事を探す】