更新日:2023年06月16日 17:39
仕事

「いのちの電話」が繋がらない?背景には、相談員を悩ませる“不届き者”の存在も

高齢化により、遅い時間が手薄に

他方で、相談員側にも事情はあるようだ。電話相談やSNS相談を展開するNPO法人の理事で、この界隈の事情に詳しい鳥海誠一氏(仮名・50代男性)は次のように話す。 「まず、いのちの電話に関して言えば、非常に厳しい訓練を2年間受けないと相談員になることができません。心理学や精神医学に精通した大学教授なども指導にあたっていることは業界では有名で、相談員の質についてはかなり高いレベルが担保されていると思います」 同時に、組織としての問題点がないわけではないという。 「一番の問題点は高齢化ですよね。若者の電話離れなどの影響もあり、若手の相談員の数は多いとは言えません。そうなると、遅い時間帯に対応できる相談員が少なく、手薄になってしまうことが考えられます。一方で、コロナ禍以降、若い女性の自死が話題を集めたように、相談したい人のなかには若年者が大勢います」

相談員の心を折る「悪質ないたずら」

いのちの電話がつながらないのは、なぜなのか。実際にいのちの電話の相談員の数名とも懇意にしている鳥海氏は、相談者が増加傾向にあること以外に、ある深刻な事態も状況悪化の一端を担っているのではないかと指摘する。 「よく聞くのは、性的ないたずら電話です。それも、最初は普通の相談のような口調で進んでいって、だんだん性的な話題へと導く手口のようで、相談員としても『こんなことで悩んでいる』と言われている以上、違和感を持っても電話を切りづらいわけです。 電話口で興奮している相手の声を聴いて『いたずらだったんだ』とわかることもあります。悩んでいる人の力に何とかなれればという立派な志を持った若手の相談員にとっては、心折れるでしょう。相当な心的ストレスになり、実際にそれが原因で辞めてしまう相談員もいるほどです。相談員の心のケアもさらに欠かせませんね」 心から血を流し真に助けを求める人たちが退けられ、邪な衝動に駆られた不届き者の回線が繋がるのだとしたら、こんな茶番はない。匿名、無料という良心を悪用する人間がいるかぎり、何かしらの改善が必要ではないだろうか。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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