「反戦デモに参加し退学処分」は見出し詐欺?…当の愛知大学広報部を直撃
「反戦デモに参加し退学処分」――そんな見出しの記事に端を発した騒動が注目を集めている。
騒動の発端は『中日新聞』の記事だ。同紙では、9月22日に「反戦デモに参加し退学処分、元愛知大生3人が再審査請求 不当な処分と主張」という見出しの記事を公開。ネットで読むことができた本文の一部には「反戦デモに許可なく参加したなどとして、愛知大は学生自治会役員の学生3人に退学の懲戒処分を通知した」ことなどが記されていた。これに対して、SNS上では大学当局を批判するコメントが殺到したのである。予想外の反響を受け、『中日新聞』では翌日から、記事全文を無料で公開し現在に至っている。
しかし、大学当局を批判するコメントと共に増えたのが記事に対する疑義である。それは、この記事が事件の背景をまったく説明しておらず「見出し詐欺」になっているのではないかというものだ。
記事によれば、大学当局は「反戦デモに参加し、無断で『愛知大学学生自治会』の旗を掲げて」「本学公認の活動であるかのような外観を作出した」という行為などを「不適切な行為」として学生3名を退学処分。これに対して「愛知大学豊橋校舎学生自治会」の吉村直之委員長らが大学に対して再審査請求書を提出し、記者会見を開いたとしている。
極めて簡潔に事実だけをまとめた記事を読めば「大学当局が反戦デモに参加したという理由だけで学生を処分している」と理解するのは当然だ。
ただ、記事では肝心の背景の部分を、まったく無視している。それは、処分された学生たちが所属する自治会が新左翼党派「革マル派(日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)」の指導下にあるということだ。
愛知大学(の豊橋校舎)は21世紀の今なお、ひとつの新左翼党派が自治会を牛耳っているという希有な大学である。特定の新左翼党派が自治会を牛耳り、自治会費などを通じた資金調達や学生の動員(サークルの部室・部費などの条件としてデモなどへの参加が割り当てられる)を黙認する。その見返りとして、自治会が大学当局にかわって大学に批判的な学生運動を封じるという共存関係は、かつては多くの大学で見られた。
1990年代に入り学生運動が退潮すると、多くの大学が蜜月関係に終止符を打つことになった。例えば革マル派の拠点となっていた早稲田大学では1996年以降、大学当局が関係を断絶する方針を決めた。これは同派の資金源となっていた学園祭・早稲田祭の中止、実行委員会を活動禁止処分とするなどの方法で活動を封じ込めたものだ。結果、革マル派は資金源であり拠点であった早稲田大学から放逐されるに至っている。
触れられていない「背景」とは
「大学当局が関係を断絶した」早大
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』
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