仕事

中卒の元ヤンキーが資産50億円の“飲食店ドリーム”を叶えるまで「15歳から学んだ料理の“姿勢”が大きい」

 渋谷の円山町と言えば、クラブやラブホテルが点在するエリアだ。かつては花街としても栄華を極め、芸妓が出入りする置屋が密集していたとか。ディープな雰囲気に包まれ、妖艶なネオンが光る円山町に、置屋の風情が残るお店がある。
炉窯ステーキ専門店

炉窯ステーキ専門店「ロガマステーキ アルカヌム」のエントランス

「ロガマステーキ アルカヌム」は、炉窯で焼く上質なステーキが食べられる、“裏渋”のステーキ専門店だ。  同店の店長兼料理長の鈴木慎也さんは以前、“日本一のステーキ屋”として名高い「麤皮(あらがわ)」のシェフを務めるなど、腕利きのシェフとして活躍していた一方、経営者としても“資産50億円”を築き上げた異色の人物である。  現在に至るまでは紆余曲折。10代の頃は鑑別所に2度も入るほどの“やんちゃ”ぶり。そんな中卒の元ヤンキーがシェフの道を志し、いかにして成り上がってきたのか。壮絶な人生について話を伺った。

“生死”をさまよった年末年始の「初日の出暴走」

鈴木慎也

炉窯ステーキ専門店「ロガマステーキ アルカヌム」の店長兼料理長を務める鈴木慎也さん(50歳)

 幼い頃に父を亡くした鈴木さんは、小学1年の頃から少林寺拳法や極真空手を習っていたという。小学4年のときにはボクシングもやり始めたものの、「周りからいじめに遭っていたが、喧嘩をする度胸がなかった」と話す。 「当時はベビーブーム真っ盛りで、新しく中学校を新設するくらい、ひとクラス当たりの生徒数が多かったんですが、自分は中学1年に進学するまでいじめられっ子でした。そこで、人間関係の悩みを幼なじみのグレた先輩に相談したところ、『うちの仲間になれ』」と言われて。翌日から、ボンタン(変形学生服)を着て不良の仲間入りをしたんですよ」(鈴木さん、以下同)  中学2年からは湘南の暴走族に入り、集会(仲間同士が集う活動)があるたびに参加していた。鈴木さんの役割は最後尾を走る“けつ持ち”だったそう。 「実は暴走族時代に命拾いした出来事があったんですよ。なかでも、“初日の出暴走”は一年の中で盛大に行われるもので、大勢の仲間と海沿いを走っていたところ、不意にヤクザに襲われてしまって。後日、特攻服を着てヤクザの事務所へ仕返しにいったものの、本物のヤクザの強さを思い知らされたんです。  目はテープでふさがれ、手と足も縄で縛られた状態で、丹沢の山へ置き去りにされてしまい、6日間ほど生死をさまよう経験をしました。幸いにも、車で近くを通りかかったおじさんに助けてもらい、一命を取り留めましたが、今でも記憶に残っているほど壮絶な年末年始でしたね」

料理人人生のスタートは超絶過酷な職場だった

鈴木慎也 このような“やんちゃ”ぶりが原因で、鈴木さんは横浜の鑑別所に2度も入ることになり、高校への出入り禁止が言い渡されてしまう。  高校への進学が断たれてしまった鈴木さんは、「ヤンキーは刃物好きなので(笑)、調理学校で料理を学びたい」と思うように。中学卒業後は、小田原の崎村調理師専門学校へ進学して調理師免許を取るべく、勉強に励んだ。  そんななか、アルバイト先の中国料理店で「中華」の魅力に気づく。 「包丁の大きさ、中華鍋から火が立ち昇る様子は、まさに“男の料理”と言えるもので、自分も中華をやってみたいと考えるようになりました」  調理学校を経て就職したのは、横浜中華街の高級中華料理店「華正樓(カセイロウ)」。  その当時、厨房には80人の調理スタッフを有する大所帯だったという。一方、毎年30名の新人が入ってくるものの、料理に向き合う姿勢のあまりの厳しい指導に辞めていく人も後を絶たなかったそうだ。 「自分の同期30名のうち、入社初日の休憩時間に23名が帰ってこなくなり、勤務後は夜逃げしてしまった人が5名いて。1日で28名が辞めてしまうくらい過酷で。1ヶ月後には自分一人しか残っていませんでした」  その後、2年目以降は野菜の仕事を担当し、揚げ物の担当を任されるようになると、北京ダックや胡麻団子などの料理も作るようになった。  鈴木さんの腕前は厨房内でも確実に評価され、頭角を現していく。そして、入社6年目で副料理長に昇格。月収は100万円を超え、ボーナスも400万円ほどもらっていたそうだ。 「若手だった頃、まかない料理を作らせてもらう機会があったんですが、7年目の先輩に『こんなもの食べられない』と全部捨てられてしまって。その時はトイレで号泣しましたね。そうした悔しさをバネに絶対に這い上がってみせるという一心で頑張ってきました」
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料理人から経営者へ
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1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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