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ディズニーシーの園内が“複雑”な理由。なぜ構造が「日米で大きく異なる」のか

全国に数多くあるテーマパーク。今もなお新しいテーマパークが生まれては人々を楽しませ続けている。しかし、そんなテーマパークには、あまり語られることのない側面が存在する。そんな、「テーマパークのB面」をここでは語っていこう。 2001年に誕生した東京ディズニーシー(TDS)。もともとはアメリカ・ロサンゼルスに作られる予定だったパークの構想が、浦安の地で実現したテーマパークである。その企画・開発にあたっては、日本でパークの運営にあたっていたオリエンタルランドの意向が多分に反映されたという。これは「ディズニー」イメージを重視するディズニーパークにしては珍しいことだった。実際に出来上がったパークは、ロサンゼルスに建設される予定だった「ディズニーシー」とは、大きくその方向性が異なったようだ。 そのような事情もあってのことだろうか、TDSのパークを眺めていると、その園内の作り方に、非常に日本的なものを感じてしまう。
東京ディズニーシー

Antelope – stock.adobe.com

「TDSのパーク構造」と「江戸中心部の都市構造」は似ている?

どこに、日本らしさを感じているのかというと、そのパークの構造である。私が、TDSのパーク構造と比較したいのが、江戸時代の江戸中心部の都市構造だ。江戸市中の地図を見たとき私は、直感的に「似てる!」と感じたのである。どこが似ているのか。 まずは全体を取っている水路の流れが似ている。江戸は、いわゆる「のの字」型に水路が通っていると言われる。江戸城を中心として、ぐるりと市中をめぐるように水路が通っている。実は、TDSの水路の構造もこれと似ていて、中央にあるエリアであるミステリアスアイランドを中心に、園内をぐるりと一周するように水路が通っている。 加えて、それぞれの通路の複雑さも似ている。江戸市中の道の特徴は、大きな道がなく、細かい道がさまざまな方向に通っていることであるが、TDSの道も似た特徴を持っている。TDSに訪れたことがある人ならば思い出せるかもしれないが、その園内は迷子になるぐらい複雑である。マップで見ているよりも、実際に園内をめぐってみるとその複雑さには驚かされる。

ディズニーランドはシンデレラ城を「中心」にしているが…

ここで私はふと考えてみた。どうして、このような類似性が見て取れるのだろう。 槇文彦『見えかくれする都市』によれば、日本の都市には「中心」がないという。海外の都市では、都市の中央に教会や広場があり、そこを中心として街が成立している。例えばパリの場合は、中心に凱旋門が配置され、そこから放射線状にそれぞれの街区へと道が伸びている。それに対して日本の伝統的な都市空間は枝葉が分かれるように道が複雑に入り組み、シンボルマークとするような建築が無いか、あるいはそのような建物が複数並び立った状態で都市に存在するという。 確かに、TDSもそうである。最も目立つものでいえば、プロメテウス火山があるが、これは明確な中央に位置しているわけではない(そもそも、TDSのシンボルマークはその入り口にある「アクアスフィア」なのだが、この存在感の薄さも気になるところだ)。また、「タワー・オブ・テラー」が入る「ホテル・ハイタワー」も視覚的には非常に目立つ。 ディズニーランドが中心のシンデレラ城を「中心」として、きれいな放射線状の園内を構成しているのに対し、TDSは「中心」に対する意識が非常に低い。
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TDSの「奥」には「ピラミッド型の宮殿」が
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ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)
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