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夜逃げ、離婚、娘の死…“波乱万丈すぎる人生”を歩んだ男が作る演奏会の中身「奇声を発してもOKな空間を」

両親の離婚で一家離散。ピアノも売却

 悩める芸術家の繊細な心はまさに小舟。その小舟をさらに荒波が襲う。 「大学2、3年のときに両親が離婚し、それに伴って家族は離散しました。私は大学を辞め、独り暮らしをしながら細々とアルバイトで食いつなぐ日々になりました。新しく建てた家には母が住み、父は祖父母と暮らしていた元の家に戻る形になりました。私たちの夜逃げからほどなくして祖父は亡くなったようで、祖母だけが残っていたのです。母はローンを抱えて、経済的に非常に困窮しているように見えました。そのため私は、金になりそうな楽器などを次々に売り払い、最後はピアノを売って、母を助けようと試みました。  当時の私には、文字通り何も残っていませんでした。30歳目前まで、私はたまに音楽をやりながらも『ここまでの苦労をして一つの芸を身につけて、結局、社会には通用しないのではないか』という疑念に苛まされ続ける日常を生きました。ときには作曲の先生に師事しながら音楽を続けようとしましたが、劣等感や不安感が拭えるまでにはなりませんでした」

シングルマザーと結婚するも「自分に幻滅」

 だが29歳のある日、DAKOKU氏の人生は曲がり角を迎える。 「ある女性と出会って意気投合し、結婚することになったのです。彼女はひとりの子どもを育てるシングルマザーでした。正直、自分も『人の人生を背負う立場になれば、鬱々と悩むこともないかな』と踏ん切るきっかけを探していた面がなくはありません。しかし夫であるとともに父親にもなれた日々は、それなりに充実していました」  だが養子に対して自分が抱いた感情によって、DAKOKU氏は再び悩んでしまう。 「父親であればできて当たり前のはずの、一緒に入浴すること、汚物を処理することなどに対して、どうしても抵抗を感じてしまう自分を発見してしまったのです。養子ではありますがきちんと愛情をもって向き合っていたつもりでも、『自分は本能的に持つべき親心さえ持てないのか』と自分に幻滅しました」
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生まれた娘は「重度の知的障害」で…
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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【イベント情報】
全ての人に、アートを。
「つながるアートフェスティバルin韮山時代劇場」

⚫︎日時
2024年4月14日(日曜)
10時〜15時30分

⚫︎場所
静岡県伊豆の国市「韮山時代劇場

⚫︎主催
特定非営利法人エシカファーム

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