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夜逃げ、離婚、娘の死…“波乱万丈すぎる人生”を歩んだ男が作る演奏会の中身「奇声を発してもOKな空間を」

生まれた娘は「重度の知的障害」で…

 そこでDAKOKU氏はひとつの結論に行き着いた。 「自分の子どもを作ろうと思ったんです。そうすれば、何か変わるかもしれない。幸運にも子どもが生まれたのですが、娘は先天的に脳内奇形があって、重度の知的障害がありました。自分が先に死んだ場合、この子はどうしていくのだろうという不安が常につきまといました」  話すことはおろか、座ることもできない娘。しかし医療の発達によって、わずかに光明はみえた。 「娘は頭蓋骨のなかに突起があって、それが脳を分断するような形になっていたようです。開頭手術をすることによって、遅延している発達が少し促されるかもしれない――医師からはそう伝えられました。あわせて、その手術の影響で、てんかん発作が起きやすくなるリスクも説明されました。私は、娘の将来が少しでも拓けるならと祈る気持ちで、手術を選択しました

勤め先から追放、そして離婚することに

 術後経過は概ね良好で、DAKOKU氏の娘は「パパ」「好き」などの単語を発するまでになったという。さらに、座ることさえままならなかった娘が走ることができるようになった。だが医師の懸念どおり、てんかん発作は頻繁にみられるようになった。  良いことばかりも続かない。DAKOKU氏は役員として勤めていた企業を追放されてしまった。 「41、42歳の頃、社内のトラブルに巻き込まれ、会社を去ることになってしまいました。1年近く、自宅にこもって音楽をやっていたと思います。また以前のように、音楽と向き合うことで『音楽に何か意味があるのだろうか』と再び隘路(あいろ)に入ってしまいました。しかし、そこで発見したこともあります。娘が音楽に乗って楽しそうにダンスをしているのです。歌詞も合っていないしリズムがズレていることはあるけれど、とても楽しそうに身体を動かすのです。私は『音楽の理論や技術を知らない人さえも思わず楽しい気分にさせるのが音楽の魅力なのではないか』と思うようになりました。誤解を恐れずに言えば、理屈にがんじがらめになっている健常者よりも、何も知らない障害者のほうがよほど音楽を楽しんでいると思うのです」  音楽と障害者をつなぐ仕事がしたい――その希望に押し出されるようにして、DAKOKU氏は前述の福祉事務所への転職を果たす。 「しかし順風満帆とはいきませんでした。今度は私生活で、妻と離婚したのです。離婚のショックよりも、妻に引き取られた娘のことが気がかりでした。私は娘をはじめとする、障害を抱えて生まれた子に届く音楽を作ろうと奮い立たせて生きてきたため、娘との別れはとてもつらかったです」
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通常のコンサートは“マナー”が重視されがちだが…
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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⚫︎場所
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⚫︎主催
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