ライフ

夜逃げ、離婚、娘の死…“波乱万丈すぎる人生”を歩んだ男が作る演奏会の中身「奇声を発してもOKな空間を」

早世した娘から教えてもらったこと

 さらに悪いことに、別居など比にならない悲しみがDAKOKU氏を襲う。 「2023年10月、就寝中にてんかん発作が起きたようで、うつ伏せに寝ていた娘は窒息死してしまいました。享年15歳でした。今でも、自分のなかで整理がつきません」  自らの拠り所としていた音楽の意義を疑った時期もあり、しかしその音楽に娘とともに救われた。にもかかわらず、娘には永劫会えない。失意のなかにいる現在のDAKOKU氏を支えるモチベーションは何か。 「重度知的障害を抱えて生まれた娘は、その駆け抜けた15年間で私にさまざまなことを教えてくれました。音楽を聴いてノリノリになったり、あるいは高尚な表情を見せたり、いろいろな気分に浸らせてくれますが、その真髄が『人を癒やす力』に溢れていること。そして、音楽は難しい理屈を知らなくても楽しめること。障害を抱える子が起こしたパニックを落ち着かせるためのCalm down musicを勉強したこともあります。また私は障害を抱える子どもたちが好む音楽だけではなく、嫌いなコード進行なども研究しています。そしてそれらを避けるように作った楽曲が、『月光』であり、他の私の音楽なのです」

通常のコンサートは“マナー”が重視されがちだが…

 DAKOKU氏は障害者が音楽に触れる機会の少ない実情を指摘したうえで、こんな試みを明かす。   「コンサートであっても演奏会であっても、通常は演者の邪魔にならないよう“マナー”が重視されますよね。障害者は曲の盛り上がりに応じて感じる興奮を抑えることができないため、少なくとも通常の音楽イベントに参加することは不向きだとされています。私は、障害を抱える子どもやその家族が参加できる音楽イベントを成功させたいと考えています。演奏者はプロのアーティストで、曲中に奇声を発しても、踊りだしても、手拍子をしても、はたまた壇上に上がっても、それを異常なことと捉えない空間。そんな場所を作りたいと考えています。実は現在、その構想は進みつつあります。まずは私の住む静岡県から準備をしていくつもりなんです」  そう話すDAKOKU氏に、音楽について思い悩む以前の面影はない。“何のための音楽なのか?” 学生時代から悩み続けた問いの解は、満足に言葉を持たないで産まれた娘が示してくれた。言葉によるやり取りを超えて娘から受け取ったものの意味は、途方もなく重い。その宝物を抱えて、障害を抱える娘の仲間たちに届ける旋律を浮かび上がらせる。それは多くの聴く人々の魂を癒やし、DAKOKU氏さえも癒やし、そして眠りについた娘への壮大なレクイエムにもなるかもしれない。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
1
2
3
4



【イベント情報】
全ての人に、アートを。
「つながるアートフェスティバルin韮山時代劇場」

⚫︎日時
2024年4月14日(日曜)
10時〜15時30分

⚫︎場所
静岡県伊豆の国市「韮山時代劇場

⚫︎主催
特定非営利法人エシカファーム

おすすめ記事
ハッシュタグ