「自分が危機状態のときに音楽が降りてくる」天才ピアニスト・ジョヴァンニ・アレヴィにとって作曲とは?
⇒【vol.2】https://nikkan-spa.jp/885754
「僕は日本をまだ“見れている”とは思ってはいません。もしかしたら見れているのかもしれませんが、しかし、そもそも何か具体的なものの印象を受けて、それを描くような曲ができる、ということはないんです。やはり、『降りてくる』んですね」
これには少々補足が必要だろう。2010年にインタビューしたとき、この現象について彼は「自分もうまく説明できないが、やはり“降りてきてしまう”。音楽がいつの間にかポンと来て、細胞分裂を繰り返して少しずつ大きくなっていく」と語っている。
さらに彼のアルバム制作についてのエピソードをご紹介すると、彼の言っていることが多少はわかりやすくなるかもしれない。2013年の来日時、彼に「アルバムをつくるときにコンセプトのようなものは考えるのか」と尋ねたことがある。それに対し、彼は「そのとき頭の中に流れていたものを“取り出して”いく作業の積み重ねが曲づくりで、アルバムはそれをまとめたもの。だから、『今回のアルバムはこういうコンセプトで行こう』といったようなことは考えたことがありません」と答えている。つまり、ジョヴァンニの曲の場合、事前になんらかの意図を持って生まれてくる、ということがあり得ないのだ。
「ただ、特に日本で受けるインスピレーションはものすごくて、日本にいる間に曲が“降りてくる”というのは頻繁にあるんですね。アルバム『Sunrise』に収録されているバイオリン協奏曲「La danza della strega」(魔女の踊り)も、大阪にコンサートで訪れたときにちょうど降りてきたものでした」
⇒日本で生まれたジョヴァンニのバイオリン協奏曲はこちら(公式チャンネルより)https://www.youtube.com/watch?v=W0suZI1zDzk
このバイオリン協奏曲については、2010年のインタビューでこう語っている。「日本に到着してからはずっとバイオリン協奏曲が鳴っています。今も、こんな感じに(と、メロディを口ずさむ)。ピアノ曲なら簡単に形になるんですけど、バイオリン協奏曲となるとオーケストラが入ってくるんです。まずバイオリンの曲が流れ、オーボエが加わり、ビオラが……とどんどん膨らんでいくので、おそらく完成するのは1年半後ですね」と。実際、アルバム『Sunrise』は2012年に発表されているので、当時のジョヴァンニの「1年半後に完成する」という目算は当たっていたようだ。 「しかし、曲が“降ってくる”という現象は、『場所』が決定づけるのではなくて、自分がどういう状態にあるかによると思います。例えば『yuzen』は金沢にいるときにできている曲ですが、このときは高熱に浮かされていました」 確かに言われてみれば納得で、日本にまつわる4曲も、日本やアジアンテイストの旋律が取り込まれているわけでもない。やはり何かを描く、何かをイメージして曲をつくるわけではなく、自然と曲が頭の中に流れてきてしまうわけだ。そのことを理解するための例として、高熱にうなされてときに生まれた「yuzen」と誕生の経緯が非常に近しく、また、ジョヴァンニの曲の“生まれ方”が「自分の状態による」ことを象徴するような曲がある。「Panic」という曲だ。 実はジョヴァンニはパニック障害を持っている。そして、初めてパニックの発作が起きて、救急車で運ばれるときに“降りてきた”のがこの曲だ。「Panic」というタイトルから連想するにどんなに激しく、また不安感を煽るような曲調かと思いきや、素晴らしく美しいメロディで、「初演のときにタイトルだけを言って演奏したら、観客がポカンとした顔をしていましたよ」と彼も笑う。 「これも私の曲のひとつの特色なんですが、自分が危機状態、困っている状態、どうしようもない状態のときに曲が出てくる可能性も高いんです。とにかく、曲はいつ降ってくるか計算ができない。『Panic』も、自分がパニックの発作に陥っている中で、なんとか美しいものを考えなければいけない、という状態で生まれているんです」 さて、これまでさんざん「頭の中の魔女」「前世は日本人」といった話をしてきたので、ジョヴァンニとはどんな変人かとお思いかもしれないが、本人は繊細な部分はあるものの、至ってまっとうな人物。世界を股にかけて年間100本ものコンサートをこなし、本国イタリアでは有名になりすぎていて、道行く人にサインを求められることもたびたびだという。だが、最後に彼はこのような自己分析をしてくれた。 「普通の人が、今回お話したようなことを聞くと『本当にこいつは気が狂っている』と思うかもしれません(笑)。でも、それも仕方がない。頭の中に流れたものを再現していきながら、曲にしていく、というのが自分の人生なんですから」 常人には理解しづらい「天才」の頭の中を、少しだけ垣間見えたような気がする。 取材・文/織田曜一郎(週刊SPA!) 通訳/堂満尚樹 写真撮影/高木あつ子
このバイオリン協奏曲については、2010年のインタビューでこう語っている。「日本に到着してからはずっとバイオリン協奏曲が鳴っています。今も、こんな感じに(と、メロディを口ずさむ)。ピアノ曲なら簡単に形になるんですけど、バイオリン協奏曲となるとオーケストラが入ってくるんです。まずバイオリンの曲が流れ、オーボエが加わり、ビオラが……とどんどん膨らんでいくので、おそらく完成するのは1年半後ですね」と。実際、アルバム『Sunrise』は2012年に発表されているので、当時のジョヴァンニの「1年半後に完成する」という目算は当たっていたようだ。 「しかし、曲が“降ってくる”という現象は、『場所』が決定づけるのではなくて、自分がどういう状態にあるかによると思います。例えば『yuzen』は金沢にいるときにできている曲ですが、このときは高熱に浮かされていました」 確かに言われてみれば納得で、日本にまつわる4曲も、日本やアジアンテイストの旋律が取り込まれているわけでもない。やはり何かを描く、何かをイメージして曲をつくるわけではなく、自然と曲が頭の中に流れてきてしまうわけだ。そのことを理解するための例として、高熱にうなされてときに生まれた「yuzen」と誕生の経緯が非常に近しく、また、ジョヴァンニの曲の“生まれ方”が「自分の状態による」ことを象徴するような曲がある。「Panic」という曲だ。 実はジョヴァンニはパニック障害を持っている。そして、初めてパニックの発作が起きて、救急車で運ばれるときに“降りてきた”のがこの曲だ。「Panic」というタイトルから連想するにどんなに激しく、また不安感を煽るような曲調かと思いきや、素晴らしく美しいメロディで、「初演のときにタイトルだけを言って演奏したら、観客がポカンとした顔をしていましたよ」と彼も笑う。 「これも私の曲のひとつの特色なんですが、自分が危機状態、困っている状態、どうしようもない状態のときに曲が出てくる可能性も高いんです。とにかく、曲はいつ降ってくるか計算ができない。『Panic』も、自分がパニックの発作に陥っている中で、なんとか美しいものを考えなければいけない、という状態で生まれているんです」 さて、これまでさんざん「頭の中の魔女」「前世は日本人」といった話をしてきたので、ジョヴァンニとはどんな変人かとお思いかもしれないが、本人は繊細な部分はあるものの、至ってまっとうな人物。世界を股にかけて年間100本ものコンサートをこなし、本国イタリアでは有名になりすぎていて、道行く人にサインを求められることもたびたびだという。だが、最後に彼はこのような自己分析をしてくれた。 「普通の人が、今回お話したようなことを聞くと『本当にこいつは気が狂っている』と思うかもしれません(笑)。でも、それも仕方がない。頭の中に流れたものを再現していきながら、曲にしていく、というのが自分の人生なんですから」 常人には理解しづらい「天才」の頭の中を、少しだけ垣間見えたような気がする。 取材・文/織田曜一郎(週刊SPA!) 通訳/堂満尚樹 写真撮影/高木あつ子
『THE PIANO OF GIOVANNI ALLEVI His Best 1997-2015』 日本向けベスト・アルバム |
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