仕事

うつ病ニート&ひきこもりが未経験から起業、“ふたり出版社”の本が人気「読めなくても、ほんの一握りの光みたいになってくれれば」

第一号の詩集は「一冊出すか、死ぬか」

高円寺のアパート

高円寺のアパートの一室に、本屋も作った

 起業すると、今度はプレッシャーが屋良さんを襲った。出版・起業ははじめてのことだらけで「2人で今度は仕事で遊ぼうよ、みたいにはじめたのに、精神的にやばくなって。“一冊出すか死ぬか”みたいな勢いだった」と屋良さんは振り返る。  出版第一号は、以前から勇気づけられていたバンド「ニーネ」の詩集『自分の事ができたら』。屋良さんは「装丁とか原価計算のやり方とかわかんなくてやっぱ素人だった。もう全部無視してつくったから全部売っても赤字っていうかギリギリ。しかも僕の力不足で全然売れなくて」とますます精神的に追い詰められていった。  しかし小室さんは「売れはしないだろうけど、やりたいことやれてんな。楽しくやれてるからよかったね」と楽観的に見ていたと言う。小室さん自身「小学生のころにゲームやってたような。ドキドキわくわくみたいなものがよみがえってた」と、心のリハビリになっていたようだ。  2000部を刷った結果、「在庫が半分、1000部残った」が、最初の一冊は、屋良さんにも自信と希望を与えた  屋良さんいわく「僕は本当にダメで、流されやすい人間。でも、あの本だけは唯一自分の意思だけ貫き通して作った。『俺、出来たよ』みたいな」と、今に至る原動力になったと言う。

ひきこもりが小さな書店の店長に「昔は誰とも話さなかったのに」

書店

ひきこもりだった小室さんは書店の店長に、連日来るお客さんとも交流する

 昨年4月には高円寺に“書店”も立ち上げた。住宅街にあるアパートの2階の一室を使った『そぞろ書房』だ。1冊目の歌詩集はもちろん、屋良さんが個人的に作ったミニコミ、応援したいと思っているインディーズ作家たちのZINEや、2人がセレクトした流通・非流通の様々な本が並ぶ。作家やテーマごとのフェアも毎週のように行っている。  書店の担当になった小室さんは「店は色んな人と話せるコミュニケーションの場。ひきこもりの時は誰とも話さなかったのに」と楽しさをにじませる。
そぞろ書房

自分たちの推したい作家の本、ZINEを集めた「そぞろ書房」

 一方、書籍の編集や営業は屋良さんが行う。  “売れない”書籍の書店営業は、屋良さんの心をさらに蝕んだ。「僕は本の内容紹介をするんですけど、ちょっと怖い感じの書店員さんは、もう『早く終わんねえかな、こいつ早く帰んねえかな』みたいな態度をあからさまに出してくる」とグチる。鬱の時の営業はつらい仕事だ。  2冊目は短歌集『incomplete album』(著・展翅零)。これも屋良さんの“推し”作家だが、また同じような割合で在庫が残ってしまった。  そして3冊目。2人が好きなプロ・アマのマンガ家たちに声をかけ、マンガのアンソロジー集『ザジ』を作った。今度は3000部刷って半分ほど売れたが、制作費用が高く、これも黒字にはならなかった。  能町みね子さんなど著名な作家も参加していたことから話題にもなり、屋良さんは「賛否両論。でも批判意見だとしても、点滅社の存在をとにかく見てくれるっていうのが嬉しかった」と手ごたえを感じた。
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鬱の人に優しい本
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