仕事

うつ病ニート&ひきこもりが未経験から起業、“ふたり出版社”の本が人気「読めなくても、ほんの一握りの光みたいになってくれれば」

鬱の人に優しい本を。『鬱の本』がバズって初ヒット

書籍

出版した書籍たち、1年半で4冊を世に出した

 そんな浮き沈みの中、4作目『鬱の本』を企画した。谷川俊太郎さんや町田康さん、大槻ケンヂさん、山崎ナオコーラさんなどの作家たちから、2人のSNSのフォロワーまで。“鬱の時に読みたくなる本”をテーマにした、84人によるエッセイ集だ。  なぜこの本を作ったのか。  屋良さんは「創業した頃からずっと、自分と似ている鬱屈や鬱を抱えている人でも読みやすい本を作りたいと思っていた。正直、僕は鬱の時には本は読めないので、そんな本は存在するのかと思っていたけれど……」と会社を作った時から鬱の人に優しい本を作りたかったと言う。  続けて「どこからめくっても良くて一篇が1000文字程度で、1〜2ページ読んだだけでも、読んだってことになる。鬱屈を抱えたみんなが、ちゃんといっぱいいるんだよ」と、メンタルがしんどい時にも読みやすい「温かく優しい本」を目指した。  さらに「正直に言うと、しんどい時は鬱の本も読めないはず。でも本棚にあるだけで『いつか読めるはず』みたいな、ほんの一握りの光みたいになってくれればいい」とも。  当初は市井の人々の鬱と本に関わる書籍になる予定だった。しかし「アマチュアの人の視点とかが大好きだけど、それだと売れないのかなというのもあって。あと、単純にせっかくこういう本を作るのだから、憧れの人に声をかけなきゃ。チャンスだぜと思って」と、辛い時に2人をカルチャーを通じて“助けてくれた”人たちに声をかけまくったと言う。  そして「5000部刷って、これがダメだったら(会社を)潰す気だったので最後の冒険にしようと思って」と勝負をかけた。その結果、初版は1ヵ月で完売。  売れたのは「みんな疲れて、傷ついてるんじゃないですかね」と屋良さん。キャッチーなタイトルや装丁、また著者たちがそれぞれSNSで宣伝し、バズったことも大きかったようだ。  屋良さんは「2週間で在庫切れになって、びっくりして、もう全然意味がわからなくて」と4作目にしてヒットを飛ばした。  今回は屋良さんが書店営業に行くと“怖かった書店員さん”もニコニコだったと言う。「注文してくれるのなら、前の態度は水に流す。相手にされるのはとても嬉しくて」と売れることの大切さを知った。

時には薬の過剰摂取も…「やりたいことをやるなら、死んでもいい」

在庫

屋良さんの自宅には、いまだ在庫が山のように積み上がる

 しかし今後も“売れるための本”を作るつもりはない。  屋良さんは「売るための努力はもちろん考えるけど、愛していない本を作るというのは、点滅社の美学的にちょっと出来ない」と言う。  ネットでは屋良さんの“日々死にそうな”気持ちを綴ったブログも話題だ。  屋良さんは「鬱は悪化している」と言い、常用している市販薬のビンを見せる。自傷癖やオーバードーズとも付き合いながらの日々だ。  しかしパートナーの小室さんは「やりたいことをやりたいんだったら、死んでもいいやと思う。彼の病気が重くなっていくのはしんどそうだと思う。でもそれがやりたいことと引き換えならしょうがないのかな。やめろとはいえない」と、今のままの屋良さんを応援・サポートする姿勢だ。  屋良さんの月収は現在4万円。「今年は鬱の本も売れ、もう少し上がるかな」と言う。小室さんのほうは「なんとか暮らせるくらいもらっている」とのことだ。
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ひとりorふたり出版社は増加傾向
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