お金

日本の「財政」は危機的ではない。財務省がまとめた国の財政状況“約702兆円の債務超過”は本当か

政府と日銀の役割

60歳からの知っておくべき経済学

日銀による国債購入の流れ(筆者が作成)

 ここで押さえておきたいのは、政府と日銀は親会社と子会社の関係性であるという点だ。政府は、日銀に対して55%出資しており、日銀法により役員任命権と予算認可権を握っている。  政府には目標の独立性、日銀には手段の独立性がそれぞれある。つまり、経済政策の舵取りは政府が行い、その方針に沿って日銀は通貨発行などの実務を行う。このように政府と中央銀行を一体として「統合政府」とみる視点が重要だ。  日銀は国内で唯一お金を発行できる銀行だが、無制限に刷ることはできない。個人が何も受け取らずに対価を支払わないのと同じように、日銀も国債を受け取ってからお金を発行する。そのため、日銀が発行したお金の量と、購入した国債の量はほぼ同じになる。  金融政策の本質は「お金を多く発行するかどうか」であり、お金を増やすことで物価が上がりインフレが生じる。これが貨幣数量理論と呼ばれるものだ。

政府と日銀は「親会社」と「子会社」の関係

60歳からの知っておくべき経済学 日銀が大量に国債を買い、それに応じてお金を発行し、金融機関を通じて市場に供給することで、景気を刺激して底上げできる。これが量的緩和で、アベノミクスではこのアプローチにより景気回復の手がかりをつかんだ。    もし日銀が全ての国債を持つようになれば、金融機関から国債がなくなり、財政の問題も解決する。なぜなら、政府の子会社である日銀が国債を全て持つということは、財政の負担がゼロになることを意味するからだ。  現状、それが実現していないのは、国債を保有している民間金融機関が積極的にそれをお金に換えようとしないからだ。詳しくは第5章で解説するが、国債は利回りのいい金融商品なので、金融機関も手放したがらない。  財政出動の際に発行される国債は「新発国債」と呼ばれ、最初は様々な金融機関で取引されて日銀も買いやすくなる。ただし、時間が経過して次第に取引が減っていくと、金融機関の倉庫にしまわれて、埋もれていってしまうのだ。  いろいろと話が脱線したが、ここで最も重要なのは、政府と日銀が親会社と子会社の関係であり、政府の借金は問題ないということだ。
次のページ
「統合政府のバランスシート(BS)」でわかる財政状態の真実
1
2
3
1955年東京都生まれ。数量政策学者。嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(内閣総務官室)等を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍。「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」などの政策を提案。2008年退官。菅義偉内閣では内閣官房参与を務めた。『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞受賞。その他にも、著書、ベストセラー多数。YouTube「髙橋洋一チャンネル」の登録者数は123万人を超える。

記事一覧へ
60歳からの知っておくべき経済学 60歳からの知っておくべき経済学

財政の仕組み、税金、保険、年金、仮想通貨、家の購入……正しい経済知識があなたを守る!

おすすめ記事