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国の借金1千100兆円でも日本は破綻しない…現代貨幣理論=MMTとは?

借金1千100兆円の日本が破綻しない? いまMMTが注目される理由

 かつてない超高齢化社会を迎え、新型コロナ禍の今では息の長い公による補償が必要不可欠となっている日本。社会保障の財源確保が急務となる一方、国の借金は1千100兆円を突破し、将来の増税もやむなしとも考えられる状況だ。  しかし、「増税は一切不要」「財政赤字でも日本は破綻しない」と主張する人々が増えている。彼らが根拠とするのが「MMT」だ。注目の経済ワード「MMT」とはどのような考え方なのか。『MMTが日本を救う』の著者、経済アナリストの森永康平氏に話を聞いた。 森永康平氏――最近、MMTという言葉を最近よく目にするようになりました。 森永:MMTとはmodern monetary theoryの頭文字を取った略称で「現代貨幣理論」と和訳されています。すごくざっくり説明すると、日本のように自国通貨建ての国債を発行できて、かつ変動相場制を採用している国は、どれだけ自国債券を発行しても財政破綻するリスクがないという主張です。 MMTが注目される背景として、2019年10月の消費増税のタイミングで一度脚光を浴びました。経済学に興味がない人も「日本の景気がよくない」と肌感覚で思っていた時に、なぜこのタイミングで消費税を上げるのか疑問に感じていた。とはいえ「社会保障費がないと困るし、そのための財源は必要だし、みんなが公平に負担する消費税で財源を作ろう、我慢しよう」というのが日本人に刷り込まれていて渋々従った。 ――たしかに当時、社会保障に関するニュースをよく目にしました。 森永:そして今回の新型コロナによる休業要請です。あくまで要請ですが、実態は命令に近いわけです。営業してたら自粛警察から卵投げられますし。 「休業するからしっかり補償してくれよ」と訴えても、「日本はこのままだと財政破綻するから、これ以上はお金を出せません」と返される。 それを日本人は基本的にお上に従順なので、「なるほど、仕方ない」と納得してしまうのですが、もちろん一方で「ふざけんな」と納得しない人もいます。そのような流れで注目されたのがMMTで、消費税を上げて景気を悪化させずともMMTに基づけば財源は国債発行で賄えるだろと。 ――ドンドン財源を作って赤字でも大丈夫というのは、にわかに信じがたい話です。 森永:MMTは主流派の経済学と真逆の話を主張することも多いなので、賞賛の対象ではなく「トンデモ理論」として注目され、世界中の偉い経済学者や、政府、中央銀行からボロクソに叩かれました。「現代貨幣理論」の和訳通り、あくまで貨幣理論であって経済学理論ではないので、主流派の経済学者が怒るのは、私にはよくわからないところですが。MMTはどちらかというと実務家が理解を示していて、主流派経済学に慣れ親しんだ人が暴論扱いしている傾向があります。

MMTは実務家にこそ受け入れられやすい考え方

――MMTを実務家が受け入れやすい理由があるのでしょうか。 森永:MMTを解説するのに「モズラーの名刺」という逸話がよく使われます。 お父さんが、子どもたちに「お手伝いをいをしたら、お父さんの名刺をあげるよ」というのですが、子どもたちは「そんなのいらない。何の意味があるの?」とお手伝いをしません。 そこでお父さんが「月末までに名刺を30枚集めないと家から追い出す」と宣言すると、子どもたちは必死に名刺を集めるようになります。本来意味がなかったものが、納めろと言われた瞬間に価値を持つのです。兄が名刺を40枚持ってて、弟が20枚しかなかったら、兄弟間で名刺10枚を何かと交換したりもします。貨幣が納税の支払手段となることで貨幣が流通するという考え方です。 ――お父さんが国で、子供が国民で、名刺が貨幣ということですね。 森永:日本の1万円札の原価は、22~24円と言われています。現代の貨幣は兌換紙幣ではなく不換紙幣なので、1万円札を持って日銀に行って、「これを1万円分の金と交換してください」といっても、「無理です」でお終いです。つまり、私達は原価20円程度の紙切れに1万円の価値があると信じ込んでいて、ありがたがっている。その紙切れはコンビニでも使えるし、給与としても使われる。 何故それが成り立つかというと、私達は国に税金を収める義務があり、その支払手段として日本円が使えるからだとMMTでは考えます。1万円札を使って納税すると、国が1万円として受け取る保証があるから私達は必死に紙切れを集めるし、もらえたら嬉しいと感じる。つまりMMTでは、税金は財源としてあるのではなく、お金を回すための装置であり、「租税が貨幣を動かす」とされています。 ――通貨発行体の信用が裏付けという考え方とは、別のアプローチですね。 森永:国家樹立のタイミングだとシンプルで理解しやすいと思います。樹立直後は世の中に貨幣が出回ってません。そこでまずは国が公共事業なりで市中にお金を回して、後に一部を税金で回収します。貨幣が勝手に湧き出ることはないので、最初に国が支出しないことには徴税も出来ないからです。これをMMTでは「スペンディング・ファースト」と言います。 そう考えると消費増税もおかしな話で、「財源が必要です! そのために税率を引き上げます!」ではなく、「まずは国が出すべき」と考えることが正しく、疑問の声が出るのも当然です。 森永康平氏

国民一人あたり借金880万円説のウソ

――ほかにもMMTが支持される理由はありますか? 森永:MMTを好む実務家の支持理由に「誰かの黒字は他の誰かの赤字である」という考え方があります。 国は財政赤字を脱却し、財政黒字を目指していますが、バランスシート的に考えると国の黒字の反対側で誰かが赤字になっています。この誰かとは民間なのではという指摘です。本来的には国が赤字で民間が黒字のほうが経済は成長します。それを「何が何でも国を黒字にする! そのためにお前らに重税を課す」という考えには異を唱えたい。 ――国の赤字の裏返しで民間が黒字なら、過度に財政赤字を気にしなくてよい気もします。 森永:資産があって負債があるのがバランスシートの考え方なので、よくメディアが「国の借金が1千100兆円もあります! 総人口で割ると国民一人当たり880万円の借金です!」と報道するけど、これもおかしな話なんです。 国の借金の貸主は民間です。政府の負債をなぜ国民の数で割るのか意味がわからない。それはおかしいというのがMMT支持派の主張です。 ――国の借金は、我々国民が返す必要はないと。 森永:赤字の主体と別のところに黒字の主体が存在するわけですから、誰かの赤字を、別の誰かの赤字と表現するのは理解しがたい。これは経済学ではなくて簿記の話です。資産と負債がバランスする貸借対照表原則は、実務家であればみんな知っています。 でもなぜかTVのニュース解説番組などでは、国が赤字だとしたら一体誰が黒字なのかという視点が抜け落ちていて、そこの議論がないまま、「このままでは、日本は財政破綻する!」と騒いでいる。でも「じゃあ、いつ破綻するの?」って疑問を解消できないんですよね。
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MMTの議論はかみ合っていない
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