ライフ

“1か月半の昏睡”と8か月の入院で「三途の川を見た」。コロナ重症化でエクモに繋がれ生死の境をさまよった43歳男性が告白

目が覚めても新たな苦悩が

ひとみ

過酷だったリハビリ

「昏睡状態から起きたら右側に嫁がいて、左側に親父がいました。最初、なぜこうなってるのか理解ができませんでした。自分という存在の認識もなかなかできず混乱状態でした。少ししたらパニックも治ってきて、そういえば、俺はコロナに罹って入院してたんだと。まさか1か月半も意識を失ってたとは思いませんでした」  意識を失っている間、周囲や家族はひとみさんが助からないものだと思い、葬式の準備なども進めていたようだ。妻の友達は半分冗談だが、新しいパートナーの斡旋なども進めていたという。意識を取り戻したことにより、全て白紙に戻ったが、ひとみさんには新たな苦悩が襲いかかった。 「真っ白い部屋で動けず、スマホもなく、栄養は点滴で摂取、聴こえるのは医療機器の電子音のみ。時間や季節も何もわからず、1人でただ天井を見るだけの日々。本当に退院できるのか、社会復帰できるのかなど考えていたら、虚無感や絶望感に襲われました。俺はコロナで死んでたほうが良かったのではないかと思うくらいまで、精神を病んでしまいました。何度も看護師に俺を殺してくれと懇願したのをよく覚えています

「ひとみちゃんの肩にハンサムなおじいさんがいるよ」

ひとみ

一時は歩くのも困難な状態になった

 なんとか、病院食が食べられるようになるくらいまで回復したところで、地獄のリハビリが始まった。 「手術による後遺症で、身体中が痛く、筋肉が完全に衰えてしまってました。歩く練習や簡単な筋トレなどをやらされたのですが、松葉杖がないと全く歩けないんです。転倒したり、手術の痛みや運動のキツさに耐えられずに何度もリハビリを中断してもらいました」  ひとみさんは日本でも5本の指に入るほどの重症患者で、日本では珍しい症例だったらしく、当初は治療法が確立されてなかった。なので、外国の論文などを参考に治療をし、ようやく翌年4月に長い入院生活も無事終了した。コロナに罹患してから、のべ9か月半の入院だったがいま現在もリハビリは続いている。 「退院して、久しぶりに飲みにいった時は嬉しかったですね。霊感があるという女友達と飲んだのですが、『ひとみちゃんの肩にハンサムなおじいさんがいるよ。見守ってくれてたんだね。だから死ななかったんだね』と泣きながら言われて。どんな容姿か詳しく聞いたら、意識不明の時見た川の夢で、向こう岸にいたおじいちゃんと同じ顔でビックリしました。そんな奇跡みたいなこともあるんだなと」
次のページ
逃げ込み先だった「物語」で社会復帰
1
2
3
’92年神奈川県鎌倉市出身。ライター業、イベント企画、映像編集で生計を立てています。レビュー、取材、インタビュー記事などを執筆。Twitter:@yamazaki_naoya

記事一覧へ
【関連キーワードから記事を探す】