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「プールの水出しっぱなし」事件が今年も続出。13日間出し続け「約300万円の損害」を出した小学校も

神奈川県横浜市:60万円弱の損害も「教諭に賠償を求めない」対応

最後に、今年1月に明らかになった横浜市立永田小学校の事例にも触れておきたい。同小学校では、2023年8月17日から20日にかけて、約3日間の注水ミスで812立方メートルの水が流出。損害額は約58万7千円に上った。 しかし、この事件で特筆すべきは横浜市教育委員会の対応だ。彼らは2024年1月17日に「重大な過失はない」として教諭に賠償を求めないことを決定したのだ。 横浜市教育委員会の判断根拠は興味深い。彼らは「給水や止水時の手順書の作成を学校側に指示していなかった」として、問題を個人の過失ではなく、システムの不備として捉えたのだ。これは、他の自治体とは一線を画す対応といえる。 一方、教諭に賠償を背負わせてしまった隣の川崎市では、今年のプール開きを前にした6月に労働組合が、今後同様の事例で教員に賠償を請求しないことなどを求める請願を市議会に提出している。請願では損害賠償請求の撤回や、納めた賠償金を返金することも求められた。やはり、いくらミスとはいっても、労働者個人に責任を負わせるのは適切とはいえない。 とりわけ、教員は授業の準備、生徒の指導、部活動の顧問、そして様々な校務分掌に追われている。そんな中で、プールの水管理まで完璧にこなすのは難しいのかもしれない。なにより、教員の人手不足が深刻になる中で、ミスをした場合に個人が高額の賠償金を払わなければならないとなれば、誰が教員になりたいと思うだろうか。 個人に責任を負わせるのではなく、組織全体の問題として捉え、再発防止に努めるという姿勢が重要だ。横浜市の対応は、その点で参考になるだろう。 最後に、これらの事件を笑い話で終わらせてはいけない。確かに「またか」と笑ってしまいそうになるが、その裏には教育現場の深刻な問題が隠れている。教員の労働環境、学校の設備管理、行政の対応などなど。これらの問題に真剣に向き合い、改善していく必要がある。 <TEXT/昼間たかし>
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』
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