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ヤーレンズが吉田豪に明かした胸の内「M-1決勝進出するまで、圧倒的な絶望感があった。誰も僕らに期待していなかった」

同期が次々売れる、圧倒的な絶望感……。 「自分たちだけが、お笑い好きからも見放され”無風”だった」 史上最多の組数が参加したM-1グランプリ2023。そこで僅か1票差で優勝を獲り逃した漫才コンビ・ヤーレンズ。一晩で人生が変わると言われる大舞台で、2位ながらも圧倒的な実力を見せつけた彼らだが、それぞれの受け止め方は正反対だったようで……。 彼らの「ラジオや配信も見ている」と話すプロインタビュアー・吉田豪が切り込んだ。

ヤーレンズ(左:楢原真樹 右:出井隼之介)

中身一切なしのラジオが、妙に面白い理由

――つい先日、ジグザグジギーとのツーマンライブで、出井さんが僕の宣材写真をイジってるところを配信で見ましたよ(笑)。 出井:ハハハハハ! たまに宣材写真のボケが必要なときに吉田さんのお写真を使わせていただいてます。おかげさまでけっこうウケるので(笑)。 ――あれでスベッたら寂しかったですけど、ちゃんと笑いが取れてたので安心しました! 出井:よかった、これで公認で(笑)。……っていうか配信買ってくださったんですね。 ――ヤーレンズのANN0(オールナイトニッポンZERO)も聴いてます。単純におもしろいと思って。 出井:え、うれしい! ――ただし中身はゼロっていう(笑)。 楢原:コンセプトそれなんで(笑)。 ――ひたすら楢原さんがボケて、そこに出井さんが乗っかって説明してを繰り返す、あのスピード感、あのボケの数。中身は何もないのも画期的だと思います。     出井:よく「情報をクラウドで共有してるのかっていうぐらい速い」って言われます(笑)。 ――どういうボケを入れるのかって、絶対に打ち合わせしてないじゃないですか。 出井:してないですね。 ――だから当然、中身はなくなる(笑)。 楢原:そう、中身はなんにもないですね。次の弾こめてるあいだ説明でつないでる、と。 ――ほかの芸人ラジオがやってないことをやろう、みたいなテーマがあったんですか?  楢原:そうですね。エピソードトークをダラッと話すスタイルはタイプ的に向いてないな、と。1個の話を長く話すのはあまり好きじゃないんで。だったら僕らは違うことやったほうがいいかなっていうことで、普段しゃべってるのがホントにあんな感じです。 ――日常的にああいう会話をしてるんですね。 出井:普段から楽屋でもコンビでしゃべるほうではあるんで、それがまんまラジオに活きてます。それを公開でやってるのがラジオ。 ――話すのは芸能スキャンダル関係? 出井:芸能スキャンダルは好きですね。 ――プロレス、格闘技関係も多いですよね。 出井:僕はラジオを聴いて育ったんで、バッファロー吾郎さんとかケンドーコバヤシさんみたいに、プロレスをはじめとしたマニアックなこともラジオではぜんぜん言っちゃうもんだっていうのが刷り込みとしてあって。リスナーの「誰がわかんねん!」とも誰も言わないまま普通に話をしてたのが印象深いんですよね。 ――そのせいで、あきらかに世代的にはちょっとズレのある話が多くなる。なんで今「俺ごと刈れ」(橋本真也と小川直也の合体技)の説明をしてるんだっていう(笑)。 出井:ハハハハハ! そうなんです(笑)。 ――出井さんはプロレス&格闘技マニアだと思いますけど、楢原さんはどうなんですか? 楢原 2000年代のプロレスぐらいですね。僕はその頃が一番テレビとかラジオにめちゃめちゃ触れてたんで。取り立てて好きでもなかったんですけど、夜中までテレビを観てたらなんとなく『ワールドプロレスリング』も観てて。ホントにテレビっ子だったんです。

「みんなが笑ってくれなくなったら、芸人辞める」

――ホントこの温度差がおもしろいですよね。ヤーレンズは死ぬほどお笑いのことを考えてる出井さんと、ほとんど考えていない楢原さんのコンビだと思っていて。 出井:ルーツ的にもそうですね。楢原は親に言われてよく知らないままNSC(吉本総合芸能学院)に進学したりするから、もしも、ほかに楽しいことがあったら今後も転職しかねない。 楢原:うん。いまはかろうじてみんなが笑ってくれるから、つなぎ止められてますけど。笑ってくれなくなったら芸人辞めますよ。 ――ホントよかったですよね。こうやっていろんな人から求められるような状況がきて。 出井:ホントにそうですよ! ――今回の取材にあたって出井さんの有料noteと電子書籍を全部読みました。内容がすさまじい絶望で。売れる前は焦りとか怒りとか燻りばかりで。 出井:ハハハハハ! けっこうありましたね、そういう時期は。せっかくこんな気持ちだから書いちゃおう!みたいな感じでした。。実際に焦りはすごくありましたね。 ――相方が焦ってるとき、楢原さんはどういうテンションだったんですか? 楢原:……焦ってるのはあまりわからなかったですね。コロナ禍になるまで、ホントにダラダラやっちゃってたんで。 ――次々と仲間が売れていって……ようやく。 楢原:「あ、これヤバい!」って(笑)。カズレーザーが前に言ってたんですけど、「この世代のヤツらは、全員売れるから大丈夫!」と宣言してて、僕は「いや、みんな売れない!」と信じてなかったんです。だって、5~6年、誰も結果出てなかったんで。そしたら、いつのまにか周りが僕ら以外全員売れて世に出ちゃった。そこでだいぶ焦りましたね。
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関係者もファンも期待していない無風時代
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1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。主な著書に『男気万字固め』(幻冬舎)、『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)、『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)、『書評の星座』(ホーム社)など

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