奈良公園で鹿におせんべいをあげた
――原作の舞台は、アメリカの名もなき場所ですが、それをあえて大都会ニューヨークにしたのはなぜですか?
パブロ監督:ニューヨークに10年間住んでいたことがあり、とても思い出深く、いろんなことを経験し、学んだ街。夕子と運命的に出会ったのもこの街なので、ニューヨークへのラブレターみたいな作品にしたかったんです。
――お二人のなれそめをお聞きしてもよろしいでしょうか?
原見:年齢は3つしか違わないんですが(パブロ監督が3つ上)、彼がニューヨークフィルムアカデミーの講師で、私はその生徒でした。彼が日本贔屓だったわけでもなく、私もスペインにそれほど興味があったわけではなかったので、本人同士の相性が良かった、ということでしょうね。
――ご結婚されてからは、パブロ監督も日本にすごく興味を抱いたんじゃないでしょうか?
原見:私の故郷である奈良県に行って、私の両親も交えてお茶(茶道)を嗜んだり、奈良名物のかき氷(抹茶味)を食べたり、奈良公園で鹿におせんべいをあげたり、そこで少し日本に触れることができて大好きになったみたいですね。今では日本の食べ物と洋服に目がありません。ユニクロも好きでよく着ていますよ(笑)
――ご夫婦で映画の仕事をするってどんな感じなのでしょう? 四六時中一緒にいるわけですよね?
原見:友達や仕事仲間からは、「よく続くね」と言われます。クリエイター同士の夫婦やカップルは別れるケースが多いんですよ、特にスペインは。
――お二人はご結婚されて約30年だそうですが、夫婦円満に仕事を続ける何か秘訣があるのでしょうか?
原見:どうですかね…まず、日常の暮らしと仕事を完全に分けることは難しいですね。家でも私たちが仕事の話ばかりしているので、娘はうんざりしているようで、「映画の仕事だけは絶対にやりたくない」と言っています。そんな調子ですから、夫婦円満でいられる秘訣があるとしたら、やはり、二人とも「無類の映画好き」というのが大きいかもしれませんね。
パブロ監督:私の一番の協力者であるとともに、人生の良きパートナーである夕子とは、たぶん、生きるリズムや感性が似てるからだと思います。映画やアート、本などの好みも非常に似てるところがあるし、先程、夕子も言っていたけれど、一日中、映画のこと、仕事のことを喋っていても話が尽きることがない。ゴハンを食べるときも、部屋でくつろいでいるときも、それこそ朝起きてから夜寝るまで喋ってもまだ喋り足りないくらいなんですよね。だから30年も続いてきたんだと思います。
――なるほど、子は鎹(かすがい)ならぬ、映画は鎹みたいなところもあるわけですね。最後に、読者にメッセージをお願いいたします。
パブロ監督:私にとって映画とは、白昼夢のようなもの。もし、そういった異次元の世界に行きたい人がいたら、ぜひこの映画を観てください。1980年代のニューヨーク、愛すべきドッグとロボットが皆さんをお待ちしています。
<Story>
大都会ニューヨーク。ひとりぼっちのドッグは、寂しさのあまり、テレビCMで観たロボットを購入する。ニューヨークの名所を巡りながら、深い友情を育んでいくドッグとロボット。ところが夏の終わり、海水浴を楽しんだ帰りにロボットが錆びて動けなくなり、さらにはビーチが翌夏まで閉鎖されるという悲劇に見舞われる。 離れ離れになったドッグとロボットは、次の夏、果たして再会することができるのか?
取材・文/坂田正樹 撮影/朝岡英輔
広告制作会社、洋画ビデオ宣伝、CS放送広報誌の編集を経て、フリーライターに。国内外の映画、ドラマを中心に、インタビュー記事、コラム、レビューなどを各メディアに寄稿。2022年4月には、エンタメの「舞台裏」を学ぶライブラーニングサイト「バックヤード・コム」を立ち上げ、現在は編集長として、ライターとして、多忙な日々を送る。(Twitterアカウント::
@Backyard_com)