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体育会系人材は時代遅れになるか? AI時代に求められるアスリート人材の力

アスリート人材が持つ「厳しさに耐えうる強さ」

 現代社会では、かつてのような上下関係が変化しつつある。昔は、上司や先輩の言うことは絶対であり、それに逆らうことなど考えられない時代があったのも事実だ。スポーツの分野ではそれが顕著で、むしろ勝つためならとことん厳しい指導をするのが当たり前だった。かつては「結果を出すことがすべて」といった“スポ根”で鍛えられた人も多いだろう。 「しかし現代では、少し厳しくすると選手が逃げてしまったり、『行き過ぎた指導』と監督が注意されたりします。そのため、監督としても選手に遠慮してしまうことがあるかもしれません。いろんな場面で『優しくなっている』のです。  過去の悪い慣行を正していくことは大事ですが、選手たちと向き合うことをやめ、事なかれ主義で対応していくのは問題です。それでは必要な指導もできず、選手たちは成長する機会を失うでしょう。人間関係が希薄になりつつある現代においては、上司や先輩から厳しい指導を受ける機会が減り、親密な関わりをともなう管理や監督も少なくなっています。  リーダー側としては、若手社員がすぐ辞めないよう、腫れ物に触るような対応をとるケースも多いと聞きます。新入社員の定着という意味ではそれなりの効果があるかもしれませんが、社員のポテンシャルを引き出したり、中長期的な視点で育成したりする側面においては、マイナスの部分もあるのではないでしょうか。本人の成長を考え、時には厳しく、時には優しく接してくれる上司こそが、真に信頼に値するリーダーといえるでしょう。  私も野球経験を通じて礼儀作法やマナーを徹底的に叩き込まれたからこそ、それらが自然と身についていきました。仕事においても、いい加減にこなすことなど考えられません。アスリート人材は、厳しさにもきちんと耐えられる強さを持っています。それが上下関係に揉まれてきた『強靭さ』なのです」(松本さん)

AI時代に求められるスポーツマンシップの精神

 アスリートたちのマインドに根づく「スポーツマンシップ」。スポーツは、長い発展の歴史のなかで「社会的な能力を身につけるための基礎」として位置づけられてきた。肉体的な鍛錬だけでなく、品性を養い、礼節を学ぶ場としても、スポーツの教育的な価値が認められている。 「選手たちはスポーツを通じて多くのことを学び、さまざまなスキルを習得していくわけですが、その根底にあるのが、『フェアプレー』をはじめとする『スポーツマンシップ』という概念です。これからの社会では、いっそう倫理観や基礎的な人間力が求められるようになると考えます。  テクノロジーの急速な進化にともない、近年は特に変化のスピードが速まっています。AIやロボットが人の仕事を担うようになると、私たち人間がやるべきことは次第に少なくなっていくでしょう。そうした時代の流れには、誰も逆らうことはできません。  しかし、すべての仕事がロボットに代替できるわけではありません。クリエイティビティやホスピタリティが求められる仕事、いわゆるヒューマンワークは、今後も人が担っていくことになるでしょう。そこで、問われるのが 『人間性』です」(松本さん)  スキルやノウハウを発揮する以前に、その土台となる倫理観や相手への配慮、つまり「良き心」を持った人間が、これからの社会ではいっそう求められる、と松本さんは見ている。 「こうした目の前の人を思いやり、想像力を働かせることは、人間にしかできないことです。スポーツを経験してきた身として胸を張ってお伝えできるのは、その『良き心』がまさにスポーツマンシップに通じているということです。  仕事のスキルやノウハウは、後からでも身につけることができますが、人間性がともなっていなければ、いつか限界が訪れます。不誠実な行いは一時的にごまかせるかもしれませんが、いずれ明るみに出るでしょう。常に試されるのは『土台』なのです。  その点、アスリート人材にはスポーツマンシップという素晴らしい精神が備わっています。それは社会人として、そして人間としても重要な要素を含んでいます。  商品を購入するときやサービスを利用するとき、同じものであれば、ホスピタリティがあり、顧客のことを考えて接してくれる人から選びたいと思うのは自然なことですよね。自分の仕事に誇りを持ち、扱う商品やサービスに自信があるのなら、いい加減な仕事をするはずはありません。その心持ちや姿勢は、細かな対応や所作にも現れます。  自分だけ良い思いをすればいいという発想ではなく、フェアに戦おうとするスポーツマンシップの精神は、ビジネスパーソンとして求められるあり方にもつながります」(松本さん)  本物のアスリートは、緊迫した試合のさなかでも相手に対するリスペクトを忘れません。常にフェアに物事を捉え、周囲への配慮を忘れず、正々堂々と行動する。こうしたスポーツマンシップに通ずる姿勢は、これからの社会で活躍する人材には不可欠なのだ。 <取材・文/日刊SPA!編集部>
ライフマネジメント株式会社代表取締役。1976年、神奈川県相模原市生まれ。高校時代は日大三高の主力選手として甲子園に出場。東京六大学野球に憧れ法政大学へ進学。大学卒業後、住宅業界を経て起業。「地主の参謀」として資産防衛コンサルティングに従事し、この10年で数々の実績を生み出している。また、最年少ながらコンサルタント名鑑『日本の専門コンサルタント50』で紹介されるなど、プロが認める今業界注目の逸材。 ラジオ大阪OBC(FM91.9 AM1314)にて、毎週水曜日19:45~20:00「松本隆宏の参謀チャンネル®︎」を放送中。 最新刊『アスリート人材の突破力 ~才能を引き出す気づきの法則~』のほか、『The参謀 ~歴史に学ぶ起業家のための経営術~』(游藝舎)、『地主の経営』(マネジメント社)などがある。

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