44歳で脱サラして落語家に! 前座、立川寸志という生き方
40歳を超えての異業種への転職は難しい。ましてや、それがサラリーマンから落語家への転身となればなおさらだ。お笑い芸人では、70歳を超えて娘とコンビを組んだ「めいどのみやげ」のティーチャ氏(現在、77歳)などのレアケースもあるが、落語家の場合はまず、師匠に入門を認められないと落語家になるための修業すらできない。さらに、30歳を超えるとそもそも入門が許されるケースが少なく、例えば落語協会では30歳以下でないと入門が理事会で却下されるそうだ。
というのも、東京の落語界では「見習い」「前座」「二つ目」「真打」という4段階の身分制度があり、落語家として一人前と認められる「真打」になるまでに、おおよそ10~15年ほどの修業期間を経ることがほとんど。もし30歳で入門したとしても、真打になる頃には40歳半ばになってしまう計算になる。
そんな徒弟制度が厳しい落語界に、44歳という年齢で飛び込んだ男がいる。立川寸志、現在45歳。昨年8月、44歳のときに落語立川流の立川談四楼師匠に弟子入りし、現在、立川流の前座として修業中だ。
寸志氏の前職は編集者。数々の会社を経て仕事をするうちに、小説家としても活躍する談四楼師匠の担当編集者となった。そんな彼が44歳にして職を投げ打ち、収入が激減する前座になる決意をしたのは、いったいどうしてなのだろうか?
「個人のタイミング、家族のタイミング、仕事のタイミング、そして師匠のタイミング、さまざまなタイミングがピタリと一致したんですよね。まずは何より、妻の決断というか、私が夢を追うことを許してくれたことです」
もともと中学生時代から寄席通いを始め、大学時代に落研に所属するほど落語に親しんできた寸志氏。だが、就職後、30歳を過ぎて「やはり落語家になりたい」という気持ちが時折、胸を去来するようになる。
「30代半ばの頃に一度、落語演芸界に深い関係を持つさる作家さんを編集者として担当をしていたこともあり、『噺家になりたいのですが、どうしたらなれますか』とご相談したことがあるんですね。ですが、『30歳を過ぎて前座になるのは、本人は満足かもしれないが、周囲が迷惑します。やめなさい』と諭していただきまして。それで諦めていたんです。ところが、40を過ぎてもう一度、自分の人生を考え直すくらいの衝撃を、師匠談四楼の高座に受けてしまうのです」
40代半ばで、このまま編集者として生活していてもあと15年ほどしか現役時代がない。だが、落語界は80歳を超えても活躍する師匠たちがいる生涯現役の世界だ。かねてからの夢が再び膨らんだ寸志氏は、もともと大学の落研時代に知り合い、落語に理解のある奥様に相談したところ「子供もいないし、60歳までは私の稼ぎで暮らしましょう。その代わり、60歳を過ぎたら私は一切働かないから、あとは面倒見てね」と理解を得られた。
勢いづいた寸志氏は会社を辞める段取りを始めたところで、談四楼師匠に入門を願い出る。これまでの作家と編集者としての関係ではなく、弟子入り志願者として数度の面会。師匠に、「いいのかい、これまでとは変わるよ」と言われ、「もちろんでございます」と答えた寸志氏。これで、二人の関係は「作家と編集者」から「師匠と弟子」に変わった。
見習い期間を経て、談四楼師匠の前座名でもある「寸志」を授けられ、晴れて前座として落語家の道を歩みだした寸志氏。高座でも「60歳で真打」とネタにしているが、落語家としてはスタートを切ってまだ1年。40歳を超えたチャレンジがどのような形で結実していくのか、要注目だ。
⇒インタビューの続きはこちら 「師匠、談四楼に惚れた理由とは?」
https://nikkan-spa.jp/217832 取材・文/織田曜一郎(本誌) 写真提供/スズキマサミ
https://nikkan-spa.jp/217832 取材・文/織田曜一郎(本誌) 写真提供/スズキマサミ
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