偶然網にかかったらそれは捕鯨ではない! 韓国の人々の鯨ライフ
―[韓国でも鯨をモリモリ食べていた!]―
捕鯨&食鯨を世界の国々から、鬼の首を取ったかのように責められている日本。しかし、お隣の韓国でも堂々と鯨を食べていた! そこで現地に飛び、韓国の捕鯨事情を聞いてみた
偶然網にかかったらそれは捕鯨ではない! 韓国の人々の鯨ライフ(1)
韓国の南部に位置する港町、蔚山(ウルサン)。世界最大の原子力発電所や自動車工場、そして韓国一の鯨肉消費を誇る街だ。記者が取材に訪れた日、街は三十数年ぶりに現れた”オバケ鯨”の話題で盛り上がっていた。
最初に話を聞いたのは、蔚山文化放送局のプロデューサー、イ・ヨンフン氏。オバケ鯨の番組を数々制作してきた専門家だ。
「オバケ鯨は、素早く動き回り、現れたかと思うとすぐに消え、なかなか姿が掴めないのでその名がついたといわれています。以前は蔚山の海にたくさんいましたが、今ではほぼ見られない貴重な種。今回の発見騒動も残念ながら見間違いでしょう。オバケ鯨がまた戻ってきてくれれば、本当に嬉しいんですが……」
オバケ鯨を探求してやまないイ氏も、食べるとなると話は別で、「鯨肉は好きですよ」と言う。
なお韓国では、スケトウダラの漁域を守るため、銛を打ち込んで捕獲する積極的な捕鯨を’86年に禁止した。現在流通し食されているのは、韓国政府いわく”潜在的な捕鯨”、つまり偶然網にかかって死んだ、もしくは浜に打ち上げられて死んだ鯨だけ。その他の方法で捕られた鯨はすべて不法なものと見なされる。しかし、蔚山、釜山などの東海(日本海)に面する都市のほか、ソウルにも鯨肉を提供する専門料理店があり、多くの鯨肉が食されている。
捕鯨禁止以前、蔚山は捕鯨基地として大いに栄えていた。日韓併合時は日本が、日本が去った後は現地の人々が捕鯨会社を運営し、多くの鯨を水揚げしていたのだ。そのため、蔚山に住む40代以上の人にとって鯨を食べるのはごく当然の行為。街行く人に聞けば、ほぼ全員が「鯨を食べたことがある」と答える。一方、「値段が高くて食べられない」ともこぼす。事実、”盛り合わせ”と呼ばれるユッケと蒸し肉の鯨料理は、一皿6万~7万ウォン(約4300~5000円)。現地で真鯛の刺し身が大皿一つで2万ウォン(約1450円)前後なのと比べるとかなり高額だ。そのため、蔚山の一般市民の間でも年々、鯨肉離れが起こっている。
そんな現状を食い止めるべく、また蔚山の鯨文化普及を目指して毎年行われているのが 「蔚山鯨祭り」だ。自らを「類まれなる鯨肉好き」と言う推進委員会事務局長のチェ・ナグン氏によると、祭りでは「鯨肉の試食会が大人気」なのだそうだ。
「蔚山は多くの鯨がやってくる街であると同時に、鯨を食べる街。鯨を大切にして、かつおいしく食べる、これぞ蔚山ならではの正しい鯨との付き合い方です」
不法捕鯨についてどう考えるかと聞くと「私の立場では、何とも言えない」と言葉を濁す。
反対に「不法捕鯨はある」と断言するのは、捕鯨禁止以降、韓国内の鯨の解体を一手に担ってきたチュ・テハ氏。網に偶然かかったり浜に上がって死んだ鯨は、海洋警察に申告し、認定を受けた後に競売される。そこで落札された鯨を解体するのが彼の仕事だ。
「合法の鯨はいつ現れるかわからないし、認定から解体までに時間がかかるから、長い間
冷蔵せざるを得ない。でもね、鯨料理店で『新鮮なのある?』って客たちは当然のように聞くんだよ。つまり、不法な捕鯨が行われていることはみんな知っているんだ」
取材の最後にチュ氏が見せてくれたのが、鯨の体内で見つけたという胎児のホルマリン漬け。あれっ、これってイルカでは……?
「韓国じゃイルカも鯨と見なす。みんな食べてるよ」
合法鯨の認定や不法捕鯨を取り締まる
海洋警察が、東海側の海岸線に沿って立ち並ぶ
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