「鯨を愛することは食うことである!」鯨文化保存会事務局長の主張
―[韓国でも鯨をモリモリ食べていた!]―
偶然網にかかったらそれは捕鯨ではない! 韓国の人々の鯨ライフ(2)
「太地町の人々とも仲良くやってる」
蔚山には、映画『ザ・コーヴ』のルイ・シホヨス監督が「世界で唯一無二」という表現で批判した、長生浦(チャンセンポ)という場所がある。ここはかつての捕鯨基地であり、現在もわずか1・5㎞の区間に29もの鯨料理店がズラリと並ぶ。
生まれも育ちも長生浦、「誰よりも鯨を愛する男」として料理店主らの信頼を集めているのが、長生浦で鯨の土産物店を営むコ・ジョング氏だ。蔚山鯨文化保存会の事務局長でもある彼はこう語る。
「長生浦の住民はイヌイットなどの先住民と同じ存在。生きるために、愛するがゆえに鯨を食べてきたのです。しかし韓国政府は我々を犠牲にし、一方的に捕鯨の権利を奪った。これは絶対に許されない。とはいえ、蒸し肉とユッケぐらいの料理法しかなく、鯨肉の味の普及をしなかった我々も悪い。鯨肉のおいしさを多くの韓国民に知ってもらっていれば、捕鯨にも理解が得られたでしょうから」
そんな後悔からか、コ氏が積極的に推し進めているのが新しい鯨料理の開発だ。鯨肉を使ったバーガーやジャーキーなどなど。もちろんイルカの肉も含む。
「グリーンピースをはじめ環境保護団体から批判はありますが、祭りの前後にひと悶着あるぐらいで、年中行事のようなものです」
イルカ漁をする和歌山県太地町の人々とも親しく、鯨祭りに招待しては鯨・イルカ料理を披露し合っているというコ氏は「我々にも調査捕鯨の許可が欲しい。日本にも協力してほしい」と話す。
捕鯨禁止はやはり、鯨食の普及の足かせとなっているようだ。そんななかで国立水産科学院鯨研究所のムン・テヨン所長は「今年、すでに16件の不法捕鯨が報告されています」と指摘する。
「不法捕鯨を行うのは特別な人たちではありません。イカやサバ漁に出た漁師が、夜に偶然鯨を見つけて捕るケースが多いようです。鯨を捕獲すると、すぐに他の船を海上に呼び出してそこで解体。肉はアナゴ漁などに使われる小船に積まれて、漁港へ。そこには冷蔵トラックが待機していてすぐさま搬出する。見つかれば3000万ウォン(約217万円)以下の罰金が科されますが、鯨の値段は高騰している(一頭当2500万ウォン:約180万円前後)ので、捕らずにはいられないようです」
以前は大型捕鯨船が停泊していた長生浦の漁港には、現在、9tほどの中型漁船や、ボートに毛が生えたくらいのアナゴ漁の漁船しかいない。これらの船が、一夜にして不法捕鯨の船となることもあるのだ。一方、偶然網にかかって死んだ鯨などの数は?
「鯨は90頭、イルカは600頭。確かに蔚山の海には鯨やイルカがたくさんいるので、偶然網にかかってしまうことも多い。まあ、普通の置き網ではなく、鯨やイルカの体に絡みついて動けなくする網も仕掛けられていますがね」
この”特製網”は、海底からワカメのように仕掛けられ、鯨を絡め取るという。しかも年々バージョンアップしているという説も……。
ともかく、韓国でも鯨やイルカがモリモリ食べられているようだ。取材の帰り道、タクシーの運転手にも鯨肉を食べるかと聞いてみた。すると「食べるけど、ウマくない。絶対に豚肉や牛肉のほうがウマいと誰もが思ってる」と、食鯨への認識度は、日本と大差ないようだ。
ただ、記者としては鯨をはじめ水産食文化を共有する同士、頑張ろうではないかと思うのであった。
鯨を愛することは食うことである!
蔚山鯨文化保存会事務局長のコ・ジョング氏。
鯨料理の開発普及に勤しんでいる。イルカの
ぬいぐるみは蔚山の土産物屋で絶賛発売中。
鯨を食べると記憶力が増す!
「鯨を食べると頭が良くなる」と言うムン・テヨン所長。
韓国の現代捕鯨技術は、日本に頼るべき部分が大きいとも話す
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