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キャリア官僚から一転、小規模農家へ転身

キャリア官僚から一転、小規模農家へ転身 関 元弘さん(39歳) 関 奈央子さん(36歳) 【経歴】農水省キャリア官僚 → 有機農家 【年収】1000万円 → 300万円
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関さんの農園は、もとは一面の桑畑。 地元の人々が開墾作業を手伝ってくれた 元農水省キャリアの関元弘・奈央子夫妻の自宅前からは、多彩な紅葉が進む山々と、農閑期の田園地帯を眼下に望める。母屋は6畳の台所に、8畳5部屋と6畳1部屋の2階建て木造住宅。左隣の納屋の1階は物置で、約70㎡の2階は、奈央子さんが地元の子供たちを集めて開く英会話教室に使う。母屋の右隣には2台の車が置かれた車庫がある。 「これ全部で、家賃は年間18万円。食事は自分たちの田畑でとれる米と有機野菜中心なので食費はほとんどかかりません。近隣の農家との物々交換で、野菜の種類は多いし、たまに食べる肉や魚、日用品のほかにはお金を使わないので、不況には強いですね」 と元弘さんは笑う。夫婦そろって退職したのは’06年4月のこと。 「食品安全の担当をしていたのですが、BSE騒動などもあって非常に忙しかった。国会質問の答弁書を作るため、役所に泊まり込みもしました。出世、昇進というのも気になっていました。でも、自分の仕事が日本の農業にどう役に立っているのかがわからなかったんです。国策の農業と現場の農業はまったく違うのではないかと。 『役人=役に立つ人』だと思って入省したんですが、決められたルールの中で、組織のために『役を演じる人』なんだと考えるようになりました」  元弘さんは入省前からの夢でもあった、自然のリズムに根ざした農業を始める決意を固めた。趣味で家庭菜園を楽しんでいた妻の奈央子さんも快く賛成してくれた。  前職時代、元弘さんは人事交流で現在暮らす福島県の旧東和町役場で2年間働いた。そのときに知り合った有機農家に相談し、空き家を探して入居。約350平方メートルの桑畑を開墾した畑でキュウリやインゲンなどの有機栽培を始めた。現在はその作物を売った収入に加えて、元弘さんは酒蔵で働き、奈央子さんの英会話学校の収入などと合わせて年収は約300万円程度。 「収入は減りましたが、支出も激減したのでお金に困ることはありません。このあたりでは、お金を使う場所もないですし」 仕事の帰り道や、3時のおやつを家や畑で食べながら、ふいに「幸せだなぁ」と感じるという。 「農水省時代は、結婚してからも、夫婦そろって絶えず仕事に追いかけられるような生活だったので、そんなことを考えたこともありませんでした」(奈央子さん) 「今は、決められたルールも出世競争もありません。お金には替えられないものも手に入れました。ここには昔の日本にあった、お互いに助け合う文化が残っています。これは東京で生まれ育った僕には、今まで持てなかったものです」
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奈央子さんは食育絵本の執筆も行う。 ぬり絵と英訳付き ― [競わない生き方]のススメ【2】 ―
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