「心が折れる」は自分の不甲斐なさを誤魔化す言葉【著述家・石黒謙吾氏】
著述家で編集者の石黒謙吾氏による新著『7つの動詞で自分を動かす』(実業之日本社)が注目されている。「愚直に動くこと それは誰だってできる簡単な問題解決法」と謳う同書では、「ぶつける」「分ける」「開ける」「転ぶ」「結ぶ」「離す」「笑う」という7つの動詞を提示。それらを入り口に、「<名詞で受動的に考える>から、<動詞で能動的に考える>」ことの重要性が解説されている。
著者の石黒氏に聞く「サラリーマンの日常を“7つの動詞”で見直すと……?」というテーマの4回目は「転ぶ」。タフな仕事人として名高い石黒氏の熱いメッセージを見逃すな!
◆その4「転ぶ」
――「転ぶ」なんて、ちょっと怖いですね。できれば転びたくないです。
石黒:いや、転びましょう! どんどん転んでください。だいたいみんな、ミスに対して過剰にビビりすぎ。ミスは、すればするほど、自分なりの方法論や公式が積み上げられていくもの。多少なりとも原因を考えれば、ですが。窮地を乗り越えた経験を数多く持っている人ほど難局に強い、ということは比較として言えるでしょう。ミスした経験で対策を学んで、自分なりの経験則としてストックすることができますし。あと、対策を講じられるということも重要ですが、むしろハートの問題も大きい。順風満帆で来すぎた人に大きな仕事を任せるのは、誰しも怖いんじゃないかと思います。
――ミスはしても、できれば公言したくないというか、隠せるものなら隠したい、という気持ちもあります。
石黒:自分でリカバーできるならいいと思いますよ。でも、そうやって何でも自分でどうにかしてしまうことを重ねると、リカバーできないトラブルが起こったとき、ホントに困りますから。まわりだって大迷惑をする。リカバリーできるか見えないミスをしたら、上司に早く報告して、みんなで共有したほうがいいでしょう。その時は多少恥ずかしいかもしれないけど、結果的にはそれが組織にとって被害の軽減になるはずだし、自分のダメージも少なく、引きずらない。
それに、ミスを抱え込むというのは、隠しごとをしているに等しい。隠しごとをすると、人間って顔に出ます。気になることがあると、脳のキャパシティが食われて仕事のパフォーマンスも下がりがち。で「あれ? アイツ、なんか変だよね」と周囲に思われる。そこでミス発覚となれば、信頼なんてガタ落ちですよ。早く明らかにしてしまえば、ほどなく笑い話で済ませられるようになったはずのトラブルが、大ヤケドとして残ってしまう可能性もあるんです。だから、どんどん転んだほうがいい。その転びをオープンにしていく。ミスはあって当たり前なんです。どんなにスゴイ人だって、ミスはしますから。
――石黒さんは、ミスを咎めないんですか?
石黒:やるべきことを誠実にやったうえでのミスなら、怒ったりはしません。指摘やアドバイスはしますけど。「こうしたほうがよかったね」くらいのことです。責めたり追い詰めたりしても、誰にもメリットがない。
ただし、わかっていながらであれば徹底的に怒ります。やるべきことをやらずにサボる、手を抜く、なんてことに対しては容赦なしで。僕は野球が趣味で、草野球のプレーヤーでもあるんですが、エラーについては怒りません。でも、わかっていてカバーリングを怠ったり、走るべきところで走らないのは怒ります。
野球でも仕事でも然りなんですが、失敗慣れしておくと未知なことに対して向かっていくことを恐れなくなる。これって、ホントに好循環を生み出しますし、ポテンシャルをどんどん引き出してくれると考えます。あと、ミスを重ねることで心の耐性がつく。ダメージを受けづらくなる。そうそう、「心が折れる」という言葉、大嫌いなんです。「心が折れたから、もうできません」みたいなことを言う人がいるんだけど、心なんて折れませんから! それっぽい言い回しでテメエの不甲斐なさを誤魔化してんじゃねーよ、とすら思います。
僕なんてそれはそれはヒドイものでしたよ。若いころは、さんざんミスを重ねて赤っ恥の山を築き上げてきました。それがあるから、52歳のいままで好きな本作りをやってこられたと痛感しますね。
僕はこれまで、軽く1000回以上、企画を断られてきました。出版社に本の企画を提案しても、「今回は残念ですが……」と断られてしまうのが当たり前。それでも愚直に、懲りずに企画を出し続けてきたから、200冊以上の本を世に送り出すことができただけ。僕の手がけた本の中で、世間的にはいちばん有名だと思われる『盲導犬クイールの一生』は、持ち込み11社目でようやく決まったのだけど、そんなのもざらです。「自分が諦めたら、このいい話が世の中に残らないな」という芯がないと、ビジネスだけで考えたらバカバカしくてやめたいことばかりです(笑)。
【石黒謙吾氏】
編集者・著述家・分類王。1961年、石川県金沢市生まれ。講談社『PENTHOUSE』、『Hot Dog PRESS』の雑誌記者・編集者を経て、32歳で完全フリーに。以来、書籍の編集やプロデュースに注力し、これまでに200冊以上を手がける。著書は87万部で映画化もされた『盲導犬クイールの一生』はじめ、『2択思考』『図解でユカイ』『ダジャレ ヌーヴォー』など多数。プロデューサー・編集者としても、歴史・社会ネタからサブカルまで、硬軟織り交ぜたさまざまな本作りを展開する。全国キャンディーズ連盟(全キャン連)代表。日本ビアジャーナリスト協会副会長。草野球歴34年、年間40試合という現役プレーヤーでもある。
<取材・文/漆原直行>
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