会社の規則を決める人々のホンネ「すべては社員のため」
一般的には「法令遵守」と訳されることの多い「コンプライアンス」。現場からすれば、息苦しいだけのコンプライアンス遵守のお題目。しかし、相次いだ「バカッター」「バイトテロ」事件や「食品偽装」「メニュー誤表示」問題など次々と発覚し、企業の社会的責任がより厳しく問われている。
コンプライアンスを指導する立場の担当者らにも、そのジレンマはあるようで……現在、法務・人事関係に携わる3人がホンネを語る。
<参加者>
●野村和裕さん(仮名)30歳
IT系企業勤務を経て大手通信サービス会社に転職。4年前から携帯販売事業部の人事部に配属。おもに教育を担当する
●田中 勲さん(仮名)45歳
化学メーカー勤務。営業職を経験した後、人事部に異動。法務部、総務部、内部監査部と連動して人材教育業務を行うことも
●林田 修さん(仮名)49歳
自動車部品メーカー勤務。バブル末期に入社し、営業部、NY勤務を経て、本社人事部に。酒の席でのコミュニケーションを重視
【座談会・後編】担当者のホンネ
⇒【前編】「企業のコンプライアンスが遵守されない理由」
田中:最近ではネットに絡んでの事件事故ですかね。そのため、まずメアドの管理は制約事項に入っているし、必要があれば過去ログのチェックも行ってます。
野村:ウチも新人のうちは外部送信権限はありません。パソコンにUSBを挿しても繋がらないし、フリーソフトも落とせない。ネットの閲覧も2ちゃんはブロック。
田中:ウチは、広報部だけが2ちゃんねるを見れるという噂があります(笑)。グラビア、ギャンブル関係も見れないように設定。ただ、単語で無差別的にブロックされるようで、健全なサイトでも「ギャンブル」という単語があるだけで閲覧NGになることも。
野村:これから大きな課題になるのは、SNS対策ですよね。
林田:悩みどころではあります。
野村:どんなに規制しても、呟きたがる人はいるし、会社の愚痴を言いたくなる気持ちもわかる。だから、やるのであれば、匿名をひとつ作り、そこは会社はノータッチで自由に呟いてくれていい。でも公開範囲を限定しくれと。その代わり、実名のも同時に作って、そちらは会社でチェックしますと。
林田:ガス抜きは必要ですからね。僕自身、飲み屋での愚痴を禁止されたら、やっていけない(笑)。
野村:明文化はしていませんが、飲みの席での愚痴は固有名詞を出さないでね、とは言っています。社員からしたら、厳しく締め付けているように受け止められるのかもしれませんし、それによってモチベーションが下がるという意見もわからなくもない。でも、それでも、僕は締めますよ、と言う。
田中:そもそもが職務専念の義務もあるわけですからね。ネットにしてもSNSにしても、職場でやるべきことではない。
野村:すべては社員のためで、「これに違反すると会社はあなたを守れませんよ」というのがそもそもコンプライアンスですから。
田中:上司の言葉で印象的だったのは「規定は性悪説で、運用は性善説で」というもの。個人的にはどちらも性善説でありたいけれど、罰を与える基準が人によって変わってしまうという問題も出てきます。だからしっかり規定する性悪説も必要になってくる。
野村:僕も、本来はマニュアルよりも教育で理解してもらうのが一番だと思ってます。で、個人が考えて行動できるようになればいい。
林田:私自身は現場あがりなので、規則が増えていくごとに、現場の営業の手足に枷がはめられていくイメージを抱いてしまうんです。でも、この年になり、組織は上にいけばいくほど、リスクを冒さないほうへ判断を下すし、下さざるを得ないということもわかる。
野村:組織が大きくなればなるほど、上の意見は下へ、下の事情は上へ伝わりにくくなる。同時に現場は「利益を上げる」という命題があるから大変だと思います。
林田:なので、明らかな違法行為は論外だとして、現場での運用や判断はそれぞれがどれだけ腹を括れるかにあると思っています。それはどの立場の人間も同じで、社員一人ひとりの腹の括りっぷりの総和が会社の力なのではないかと。
野村:どういう形でコンプライアンスを提示し、腑に落ちてもらえるか。それは決して、契約書でできるものではなく、人事や法務担当者の永遠の課題なんでしょうね。
― 今日も職場はコンプライアンスに大忙し!【7】 ―
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