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タイ反政府デモ座り込みの現場に行ってきた

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タクシン元首相とインラック現首相の落書き

 再びタイが揺れている。2006年にクーデターにより首相の座を追い出されたタクシン元首相の妹、インラック現首相の退陣を求めてデモ隊が座り込みを続けており、12日にはデモ隊が一時首相府の壁を乗り越え敷地内に侵入するなど緊迫した状況が続いている。

 インラック首相は12月9日に解散総選挙という最大の譲歩を見せ、来年2月2日に選挙が行われることになったが、デモ隊とそれを率いる民主党側は選挙を経ない彼らの政権樹立を要求しており、今、解決の糸口の見えない泥沼へと転がり落ちようとしている。

 しかし、多少の衝突はあり、若干名の死傷者が出ているものの、ここ数年間繰り返されてきた反政府集会の武力による強制排除の反省を踏まえてか、もしくは今回のきっかけとなったタークシン氏の恩赦法案の負い目があるからなのか、政府から警察に強制排除などの指示は出ていないようだ。

 また、その背景には警察内部の事情もある。

「警察内部でもタクシン派と反タクシン派がいる。その部門の長がどちらかによって出世にも影響するほどだ」(タイの警察幹部)

 つまり、仮に武力行使に出ようとしても、情報が筒抜けで、どういった事態になるか読めないのだ。

「今回、インラック首相が危険を察知して、都内某所にある警察関連施設で業務をすることになったが、内部の反タクシン派がデモ隊に密告して、あっという間に取り囲まれてしまった」(同)

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グッズを身につけ練り歩くデモ隊には若い女性の姿も

◆座り込みの現場はお祭り騒ぎのよう。しかしデモ隊以外の視線は冷ややか

 そんな泥沼の睨み合いが続く中、記者は現在デモ隊が座り込みをする中心地であるバンコクの西側にある民主記念塔前に足を運んでみた。

 民主記念塔前には。地方からの遠征組が大通りを封鎖して座り込み、バンコク在住者が時間のあるときに現れて、主導者が開催する演説や歌謡ショーに耳を傾けている。

 そして、周囲には数千人規模のデモ隊に商機を見出した人々が屋台を開き、グッズや食べものを販売している。周辺の食堂やレストランも24時間体制で常時満席だ。

 販売されるグッズは、今回のデモのメインアイテムであるタイ国旗の色のストラップに下がった笛だ。また、Tシャツや旗、リボンなども売られ、デモというよりもお祭り騒ぎにしか見えない。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=553873

 南のきれいな海で知られるクラビー県からやってきた女性は、ござに座って道行く人々に「がんばって闘おう!」と声をかける。いつまでいるのかという問いに「我々が勝利するまで」と応えた。しかし、この間、収入などはどうするのか。

「クラビーから民主党がバスを出してくれたので来ました。村から数名ずつで、私の旦那や弟は残って仕事をしているから大丈夫です」

 そう彼女は答えたが、実は記者が収入について訊ねたのにはわけがある。今回のデモであれ、タクシン派がまだ反政府側だったときのデモであれ、デモ参加者には日当が支給されているという話があるからだ。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=553872

 こうした「日当支給」の噂はそこかしこで聞かれ、デモ隊が居座る目の前にある会社の守衛も「あいつら、カネもらってるんだよ。500バーツから1000バーツはもらっている」と吐き捨てるように言っていた。

 このように、選挙を経ないでの政権交代という到底民主主義とはかけ離れた主張をする今回のデモに対し、冷ややかな視線を送り始める人も出始めている。

 在タイ日本人のきよさん(仮名)はこのように語る。

「あくまでも私の個人的感覚ですが、今回のデモ騒動はどうしても支持者が情報に騙されている感じが否めないんです」

 デモを支持するタイ人が彼女の勤める日系企業にも多く、中にはデモ隊側が主張する「タクシン氏が共産主義的」という意見を全面的に真に受けている人も少なくない。しかし、彼女にはそれがしっくりこないという。

「むしろ今回デモで動いている人のほうが共産主義的思想に動かされているような気がしてならないです」

 ほかのタイ人同僚は「タクシンは考え方がビジネス的だから、彼が政権に戻ったら公共事業も金儲けの対象となり、民営化され公共料金が高くなって生活が大変になるからみんな反対してるんだ」と言うそうだ。それに対し、彼女が「それは誰が言ったの?」と訊くと「みんなそう言ってる」としか返ってこなかったのだとか。

 結局、今回の反政府集会の活動はどこに向かいたいのかがよくわからない。せっかく景気のよかったタイの経済にも大きな影響が出る懸念も残る。

「今のところ、すでに予約をいただいている方のキャンセルはありませんが、タイ旅行を検討されていた方の行き先変更の動機になりうる事態です」

 バンコクの日系旅行会社の副社長が話した。今は武力衝突などの大騒動にまでなっていないので大きな影響はまだないが、2010年のタクシン派による反政府集会の騒動のようになったら、観光収入の割合が高いタイは致命的な打撃を受ける可能性がある。

 日本人向けのクラブが並ぶタニヤ通りの日本人従業員は、「2011年の洪水のときがそうでしたが、バンコク全体が危ないという報道を信じて観光客が激減したので、今回もそれが心配ですよ。あくまで座り込みをしているエリア限定で、それ以外は今のところ問題がないと強調してほしいです」という。

 飲食店などは観光客だけでなく、在住者が安全のために外出を控えることでも大きな売上減に繋がる。そのため、飲食や物販の経営者たちは、今のところ、という条件付けがあるものの「バンコクは生活も観光も問題ありません!」と主張する。

 12月9日に「今日、デモの動向が最終的に決定される」とされたが、それ以来毎日「今日が最終決戦の日」と言われ続けている。

 今日もまだデモ隊は座り続け、大半の市民や在住外国人は冷ややかにテレビでデモ隊の動きを見ている。 <取材・文・撮影/高田胤臣>




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