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米朝首脳会談の決裂は想定通り!? 誰も現状打破を望んでいない/倉山満

キーワードは、Status cquo。これさえ分かっていれば、今回の会談を読み解ける


米朝首脳会談

2月27日、ベトナムの首都ハノイにて行われた米朝首脳会談で握手を交わす、ドナルド・トランプアメリカ大統領(左)と金正恩北朝鮮労働党委員長(右)。(写真/時事通信社)

― 連載「倉山満の言論ストロングスタイル」―

 すべてが想定の範囲内。国際政治の常識を知っている者からすれば、何の変哲もない会談だった。

 さる2月27、28日に行われた2回目の米朝首脳会談のことだ。ドナルド・トランプアメリカ大統領と金正恩北朝鮮労働党委員長の会談は、事実上の物別れに終わり、共同声明すら出されなかった。

 一知半解の外交評論家、あるいは世を惑わす工作員ならば、「共同声明が出されなかったのは大失敗だ」などと扇動するかもしれないが、たった一つの鍵があれば、謎など何もない。むしろ定跡(セオリー)通りの結末とも言える。

 キーワードは、Status quo(ステイタス・クォー)。この一言さえ意味が分かっていれば、今回の会談を読み解くなど、たやすい。ラテン語の原語の意味では「現状」だが、現代では「現状維持」とも訳される。

 米朝首脳会談に関係するアクターの中で、Status quoを望まない国はどこだったのか。そもそも誰がアクターなのかを理解していれば、愚かな報道には惑わされなかっただろう。「朝鮮戦争が終結する」「日本人拉致被害者が帰ってくるかもしれない」「朝鮮半島の新時代に向けて、日本は巨額の資金供出をしなければならないのか」云々。はっきり言うが、この状況で北朝鮮が日本人拉致被害者を一人でも帰してくるならば、何かの嫌がらせ以外にあり得ない。

 現代の情勢を分析する前に、Status quoを望まない国、すなわち現状打破勢力の歴史を知っているほうが、急がば回れで米朝会談の真相が見えてくる。

 第二次世界大戦直前。1939年の時点で、現状維持勢力の代表はイギリスであった。しかし、大英帝国は既に絶頂期の勢力を失い、新興大国のアメリカが覇権を奪う勢いだった。英米の関係では、イギリスが現状維持国で、アメリカが現状打破国だった。

 だが、両国には共通の敵のソ連がいた。ソ連は共産主義を掲げる、現状打破を公言する国だった。共産主義とは「世界中の国を暴力で転覆し、世界中の金持ちを皆殺しにすれば、全人類は幸せになれる」という危険極まりない思想である。ソ連に対して、英米は共通の警戒心を抱く現状維持国だ。ここに、ナチスドイツが現れる。アドルフ・ヒトラー率いるナチスは、第一次大戦の敗戦国としてのドイツの地位に甘んじないと公言する現状打破国だった。

 英独ソの3国は主に東欧での勢力圏をめぐり抗争した。現状維持を望む英国に対し、ドイツが東欧を侵略して第二次世界大戦がはじまった。イギリスはアメリカを味方に引き入れドイツを倒したと思ったのも束の間、東欧を丸ごとソ連に併合された。辛抱強く現状を変更できる戦機を待った、ソ連の独裁者・スターリンの悪魔のような慧眼の勝利だった。

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誰が現状打破を望んでいるだろうか?

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嘘だらけの日独近現代史

世界大戦に二度も負けたのに、なぜドイツは立ち直れたのか?





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