ニュース

記者殺害のサウジアラビアは、サウド家の私物なのだ<倉山満>

― 連載「倉山満の言論ストロングスタイル」―

言論ストロング

サウジアラビアのムハンマド皇太子。ジャーナリストのジャマル・カショギ氏の暗殺疑惑により、国際社会から厳しい目を向けられている……(写真/時事通信社)

サウジアラビアとは、サウド家の私物なのだ。国王は世襲で独裁制である


 人類の歴史を振り返ると、二つの思想が戦っていることがわかる。一つは「人を殺してはならない」が当たり前の国。もう一つは、それが通じない国。

 中東最大の原油埋蔵量と生産量を誇る国、サウジアラビアも後者だったことに衝撃を受けた日本人も多いのではないか。

 サウジアラビアのジャーナリストであったジャマル・カショギ氏が、10月2日にトルコ国内のサウジアラビア領事館を訪れた後に行方不明となり、どうやらサウジアラビア政府の殺し屋に暗殺されたらしい。しかも遺体の首が切断されていたので、残虐な拷問を加えられたのではないかとの疑いがもたれている。

 サウジアラビアはアメリカの同盟国であり、G20にも参加している富裕国である。長年、「中東のヒトラー」と呼ばれたイラクのサダム・フセインと対立し、現在も過激なイスラム原理主義を掲げるイランと事あるごとに激しく罵り合っている。

 国内に多くのユダヤ人を抱え、イスラエルの安全保障を国策の最優先事項の一つとするアメリカは、伝統的にサウジを「話がわかる国」とみなして関係を尊重してきた。イスラエルを無碍(むげ)にしない国と。ところが今回の事件で、人権の尊重を世界に説いてきたアメリカとしては、苦しい立場に追い込まれた。

 中東情勢は「敵の敵は味方」との格言に象徴されるように、常に暗闘が繰り返され、時に武力紛争に発展する。争点は二つ。一つは石油資源の争奪。もう一つは宗教問題で、ユダヤ教のイスラエルとイスラム教諸国の対立が軸だ。ただし、イスラム諸国も一枚岩ではなく、原理主義を掲げるシーア派はイランを盟主とし、比較的穏健なスンニ派の代表がサウジアラビアであると聞かされてきた日本人には何が何やらわからないだろう。

 そして、約10年前に中東から北アフリカで「アラブの春」と呼ばれた革命が多発した。インターネットを駆使して革命運動を展開したので、「フェイスブック革命」とも呼ばれた。ところが、民主化どころか暴乱に苦しめられており、多くの国が独裁に回帰している。

 しかし、サウジの実態について、イスラム研究者で知らぬものなど、一人もいない。よくよく勉強しない人々が「比較的穏健」という言葉を吟味せずに、「そんなものか」と勝手に思い込んだだけだ。

 サウジはイスラム原理主義の国で、ムハンマドの時代の暮らしを本気で理想としている。ちなみにムハンマドは、わが国の聖徳太子とまったく同時代の人物である。

 女性の人権など皆無。湾岸戦争の時、米軍の女性兵士がホットパンツで街を歩き回り、「イスラムの教えに反する」と外交問題に発展した。サウジの女性は、飛行機が領域外に出ると、いっせいにベールを脱ぎ棄てるとか。一度でも外国を見ると、徹底した男女差別の自国に疑問を持ってしまうらしい。しかし、たいていのサウジの女性は、自分は父親や夫の持ち物であると教えられて生きている。

 イスラム教の聖典(コーラン)はそれ自体が法律としての効力を持ち、裁判でも世俗の法より優先される。「それではヨーロッパ中世の魔女裁判の時代と同じではないか」と思われるかもしれないが、その通りだ。

 そもそも、サウジアラビアとは、

「サウド家のアラビア」の意味である。サウド家とは、アラビア半島の豪族で、第一次大戦前後にオスマントルコ帝国が弱体化、そして崩壊していくドサクサに、国を名乗った。国というより、自分の領地を「サウジアラビア」と名づけたら、いつのまにか周囲から国のように扱われたというのが実態だ。それが今も続いている。

 要するに、サウジアラビアとは、サウド家の私物なのだ。現に、歴代国王はサウド家の世襲で、完全な独裁制である。ただし、間違っても我が国の皇室と対等の存在などと考えてはならない。日本で言えば戦国時代の斎藤道三の子孫が国王を名乗っているようなものである。

 幸か不幸か、20世紀中盤からは石油資源によるオイルマネーで、国自体は富裕である。より正確に言えば、サウド家のおこぼれで国民は生活させてもらっている。

次のページ 
石油を依存する我が国には中東情勢は重大な関心事だ

1
2

嘘だらけの日独近現代史

世界大戦に二度も負けたのに、なぜドイツは立ち直れたのか?





おすすめ記事