THE警視庁
刑事ドラマが花盛りだ(※本記事では、刑事に限らず「警察関係者」を主人公とするドラマを広い意味で「刑事ドラマ」と呼ぶ)。今クールのプライムタイム枠における刑事ドラマは、全ラインナップの3割に上る。
謎解きドラマ全盛の中、あえてアクションで勝負する『S-最後の警官―』(TBS系)、取調室での刑事と被疑者の心理戦にフォーカスした『緊急取調室』(テレビ朝日系)、女性版『刑事コロンボ』に挑む『福家警部補の挨拶』(フジテレビ系)などなど、各局が趣向を凝らしており、見ごたえは十分だ。
その一方で、『踊る大捜査線』『古畑任三郎』『相棒』などと並ぶ「国民的刑事ドラマ」がここしばらく出ていないという現実もある。もちろん『相棒』はバリバリの現役だが、すでに14年近い歴史を刻んでいる作品だ。『相棒』に続くヒット作は、なぜ登場しないのか?
「
今のドラマは、ワンクールに力を入れすぎている――というのが一つの原因では」と指摘するのは、ドラマ評論家の成馬零一氏。
「’90年代末~’00年代頭にかけて、完成度の高いドラマをワンクールでやって、後のスペシャルや映画版に繋げた結果、DVDレンタルで火がつくという『ケイゾク』系のビジネスモデルがすごく力を持っていたんです。その影響力はいまだに根強い。ただ、ワンクールで成績を残そうとすると、うまくいかないときはうまくいかないし、ヒットしたとしても、人気若手俳優でキャスティングを固め過ぎているとスケジュールの調整が難しく、なかなか次をやるのが難しい。映画化を最終目標に置いたビジネスモデルなので、続編が作れなくても問題はないんですが、
テレビドラマにとって、とにかく続ける、単発で終わらせない――というのは意外と大事なことだと思うんですよ」
というのも、「
最終的には視聴者にとって、友達の友達を見る感覚で役者をずっと追っていくような距離感になったときが、ドラマは一番強い。大河ドラマや朝ドラ、さらには『北の国から』『渡る世間は鬼ばかり』といったホームドラマがまさにそうですが、刑事ドラマも例外ではありません」
『相棒』の水谷豊は、街中でファンから「右京さん」と声をかけられることも多いという。まさに「友達の友達を見る感覚」だ。
「
そのレベルまで作品を持っていくには、やはり“育てる”しかない。テレビ朝日はそれを戦略的にやっていますよね。今でこそ国民的ドラマと呼ばれる『相棒』ですが、初期の平均視聴率は13%前後をウロウロする感じで、決して大勝ちはしていない。それでも淡々と続編を作るんですよ。その結果、シーズン5、6あたりでものすごい歴史の厚みができてきて、そのタイミングで再放送を何回も繰り返して新規のファン層を獲得して、気づいたら皆が見ている……という按配です」
脚本のよさに定評のある『相棒』だが、「スタイリッシュな映像」や「斬新な演出」とはほぼ無縁。刑事ドラマの名作に必要なのは、必ずしも“新しい試み”ではないようだ。
『相棒』の強さは時間の重み。次なる国民的ドラマの登場は、気長に待つことにしよう……。
<取材・文/日刊SPA!取材班>