日本の女子スポーツは、なぜ強いのか?
惜しくもW杯は準優勝に終わったが、強さを証明したなでしこJAPAN。彼女たち以外にも近年、日本女子アスリートの快進撃が目立つ。それはなぜか? その理由に迫った
◆男子スポーツと異なる環境面とメンタル面
決して諦めず、最後まで全力で戦い抜く。このほど行われた女子サッカーW杯で準優勝したなでしこJAPANは、そんな姿で我々を魅了してくれた。ロンドン五輪を含めると、主要国際大会で3連続決勝進出は、日本のスポーツ界全体で見ても歴史的な快挙だ。
INAC神戸レオネッサを中心になでしこたちを追い続け、今回のW杯もカナダで取材したスポーツライターの松原渓氏は話す。
「なでしこリーグの選手は、ほとんどがアマチュア。日本代表の選手たちも、アマチュア選手か、元はアマチュアで苦労してきた選手ばかり。“同じ釜の飯を食ってきた”ではないですが、同じような苦労をしてきた彼女たちは、逆境を楽しめるし、どんな場面や環境でも戦えるという自信を持っている選手が多いんです」
松原氏はアメリカに敗戦した決勝戦後のなでしこたちから出た言葉に、驚きを隠せなかった。
「前半の16分で3点も取られたときは、見ているのも辛いような状況でした。だけど、キャプテンの宮間あや選手は『5点目を取られるまで勝てると思っていた』と、川澄奈穂美選手も『不思議と4点取られても、負ける気はしていなかった』と平然と言っていました」
なでしこの精神力の強さを現地カナダでひしひしと感じたようだ。 プロばかりの男子選手に比べて、辛酸を嘗めてきたなでしこJAPAN。彼女たちだからこそ “逆境力”でもって世界のトップで戦う力を養うことができたのだろう。
◆日本の女子アスリートは世界から見れば恵まれている
日本男子に比べれば恵まれない環境に置かれている日本女子アスリートたち。だが一方で、世界を見渡せば、彼女たちが置かれている立場は悲観するものではなく、むしろ相対的に見れば恵まれていると話すのが、スポーツ全般に詳しいブロガーのフモフモ編集長氏。「世界には女性の自由、社会進出が進んでいない国がまだまだあり、国際大会などでも宗教上の理由から不自由を抱えているケースも散見されます。一方、日本の女子は学生でいられる期間は、概ね好きなスポーツに打ち込めますし、社会人となっても、仕事として競技を続けられるケースも少なくないです」
ただし、なでしこを含め、競技人口が限られているスポーツでは、もっと重要なことがあるようだ。
「日本だと男性と女性が一緒に練習をするというのが、いろいろなスポーツで当たり前にあります。例えばレスリングの吉田沙保里さんも男子選手の中で鍛えています」(フモフモ編集長氏)
そんな自分より強い相手の中で研鑽を積んできた日本の女子スポーツは、男子よりも世界ランキングが高い傾向にある。
実際、女子バレーボールは直近の世界ランキングで4位(男子は21位)、女子バスケットボールは15位(男子は47位)、ホッケーは10位(男子は16位)など、男子を上回るケースが多く、レスリングや柔道などの個人競技でも女子アスリートの活躍が目立つ。
「女子の活躍に比べて男子がはっきりと上回っている競技を探すほうが難しいのでは?」(同)
◆成長を求める女子と評価を気にする男子
男子の中で練習することのメリットは、単純に自分より強い相手と練習ができることだけではない。スポーツ心理学に基づくメンタルトレーニングを行っている大儀見浩介氏はこう語る。
「自分より強いのが当たり前という男子と練習してきた女子選手たちは、良い意味でリラックスしてプレーできる。男子が周りの評価や結果を追い求める傾向になるのに対し、女子は自らの成長に集中できるのです」
これをスポーツ心理学の世界では、内発的動機づけと言うのだとか。つまり誰かに言われてやるのではなく、自ら進化したいという気持ちだ。前出の松原氏も、なでしこを直に見て、選手たちの主体性を感じてきた。
「4年前、W杯で優勝したにもかかわらず、彼女たちはこのままではダメだという危機感を持った。そこで、男子と異なり収入などの条件が良くなるわけではない海外で武者修行をするなど、自己研鑚に励みました。そんな彼女たちだからこそ20代中盤~後半になっても、30代になっても成長し続けています」
一発屋とまでは言わないまでも、“天才”ともてはやされた後、いつの間にか姿を消してしまった男子選手は少なくない。それは女子よりも“やらされる”環境下でプレーしてきたからなのかもしれない。
大儀見氏も、「総じて、スポーツ環境が整っている男子は、育成年代の頃から、受動的になってしまうかもしれない。一方で、女子選手たちは自ら工夫し、能動的に状況を打開しようとしてきた」と話す。その差は思いのほか大きいようだ。
◆女子の強さの秘密は眩しいほどの笑顔!?
男子選手たちは、どちらかと言えば根性論や闘争心を基礎に戦っているとも話す大儀見氏。笑顔でプレーしていると、「不謹慎だ、不真面目だ」とされるからだ。
その半面、女子スポーツ界では、笑顔は珍しいものではない。女子バレーを見ればわかりやすい。彼女たちは満面の笑みでハイタッチをする。オリンピックや世界選手権などの大舞台でも、笑顔を見せるのは女子選手が多い。
「スポーツ心理学では、楽しいと感じているほうが力を発揮できるという研究結果が出ています。ほどよい緊張感やプレッシャーの中で、ほどよくリラックスしているのがベスト。前回、W杯で優勝を果たしたなでしこたちが見せた、決勝のPK直前の笑顔は、まさにそれを物語っています」
女子スポーツの強さの秘密は、彼女たちが見せる笑顔の中にもあったようだ。この結果に鑑みると、男子が血相を変えて取り組む姿になんとも言えない哀愁を感じてしまうのは、気のせいだろうか。
取材・文/遠藤由次郎 写真/Photoshot/時事通信フォト
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