「パパの仕事って違憲なの?」 自衛隊は学校でどう教えられているか
「自衛隊ができない100のこと 51」
国を守り、治安を維持する軍と警察は「我が国以外の国では」基本的に尊敬の対象です。例えば、アメリカ大統領であったジミー・カーターはアナポリス海軍兵学校出身で、潜水艦乗組員として勤務した経験があり、“ジミー・カーター (USS Jimmy Carter, SSN-23)”という潜水艦は彼の名から命名されています。アメリカの大統領選において、軍歴は「国の為に尽くした勇気ある者の証」として好意的に受け止められるのです。
このように諸外国ではストレートに軍人の強さや勇気を褒め讃えることができますし、わが国も戦前まではそうでした。しかし、終戦後その状況は一変します。昭和32年の防衛大学第一期生に対する吉田茂首相(当時)の訓示は次のようなものでした。
「君たちは自衛隊在職中決して国民から感謝されたり、歓迎されたりすることなく自衛隊を終わるかも知れない。非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。ご苦労なことだと思う」
自衛隊員には非難と誹謗が集まるであろうという感覚を時の首相自らが持っており、だからこそ自衛隊は「虐げられる存在である(が、どうかよろしく頼む)」と訓示を与え覚悟を求めたわけです。我が国は様々な差別を克服してきたはずですが、このような「非難と誹謗が前提」などという職業が他にあるでしょうか。自衛隊に対する国民の意識もかなり変わってきていますが、次の御代にはこのような職業差別を残したくないと思います。
ある時期まで、小中学校の教科書では「自衛隊は違憲だ」とする否定的な意見ばかりが強調されていました。時代とともに自衛隊の評価が変わり、現在は肯定的な意見も教科書に同時表記するように改善されてきましたが、「自衛隊が違憲だという主張もある」という表記は多くの教科書にあります。
その部分を読む自衛官の子供達に対する配慮はなされているのでしょうか? これまでの実例です。
さる2月28日の衆議院予算委員会で、自民党の小田原潔議員(54歳)の質問がありました。「自衛官は違憲なの?と涙を流して尋ねたお子さんがいる」という安倍総理の発言を嘘であるかのように扱った野党議員に対し、自衛官のご子息である小田原議員が当事者として反論したのです。
小田原議員が小学生であった昭和51年頃には、社会科で憲法を学ぶ際には「戦争を放棄した憲法のもとで武器を持つ自衛隊があることや、国内にアメリカの軍隊がとどまっていることなどは多くの議論を呼んでいます」と教科書に書かれていました。児童の1/4は自衛官の子供のクラスであったため、先生はやりにくそうに見えたそうです。
自衛官の子供にとって「自衛隊」の文字は「お父さん」と同義語です。担任の先生がそこだけ歯切れが悪くなるのを見て、子供心に複雑な気持ちになりました。「お父さんは憲法違反なの?」とは親を心配させるから聞けず、子供ながら精一杯の親への気遣いをして育ったのだと小田原議員は語りました。
「自衛隊が憲法違反ということは分別のつく頃からニュース、ワイドショー(で言われ続け)、暴力装置と言い放った閣僚もいました。テレビを付ければ耳に入ってきます。一家団らんの時そんな話題が(自衛官の家族に)流れてきたらどんな雰囲気になるか、皆さん想像できるでしょう?
お父さんが憲法違反と言われたから涙が出るんじゃないです。こんなことを聞いたら父は悲しむと百も承知だけれど、今日あったことが辛くて我慢できないから親には聞いてほしい。聞いた瞬間に親がどんなに心を痛めた表情になるかわかっているから口に出す前から涙が出るんです」(小田原議員)
悲痛な声を絞り出しての国会での発言でした。
終戦後、「非難と誹謗」が前提だった職業
自衛官の息子である議員が切々と語ったこと
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
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『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』 日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる…… |
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