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一見つまらない人でも、掘り下げれば面白い引き出しを持っているものだ

おっさんは二度死ぬ 2nd SEASON

うどんのない小さなうどん屋

 ある人間を「つまらない人間」だと思ったとしよう。  会話も弾まない、一緒に行動しても何も楽しくない、無言の時間が続く、こいつはなんて退屈な人間なんだ、そう思うかもしれない。けれども、それはあくまでもその人の退屈な一面だけを見せられているだけど、本当は違うかもしれないのだ。  実のところは、その人はとても面白く、エキサイティングな話をできるかもしれない。けれども、自分はその一面を見せてもらっていないだけで、もしかしたら、見せる資格はないとまで思われている可能性すらあるのだ。つくづく人間とは面白いもので、自分が見ているその一面だけ取って面白くないと断じる行為は危うくもあるのだ。  その日、僕はレンタカーを運転していた。仕事の関係で、ある地方都市から地方都市まで移動する必要があった。その都市間の交通手段があまりに脆弱なので公共の交通機関での移動が難しく、レンタカーで移動することになったのだ。  これが単独での移動なら、ガンガンに音楽でもかけて熱唱しながら運転するけど、あいにくそういうわけにはいかなかった。助手席には憮然とした表情で座るおっさんの姿があった。初めて会う人なのだけど、様々な都合があって一緒に移動することになったのだ。

まったく話に乗ってこないおっさん。どうしたものか……

「ご出身はどちらですか」  初めての人とコミュニケーションをとるには出身地を聞くといい。そこから「ああ、○○とかいいですよね、何年か前に行きました」みたいにその地方の話題を膨らませていけば良い。そんなことがなんかの本に書いてあった。それに従って切り出してみる。  けれどもおっさんは憮然とした表情のまま、あまり会話に乗ってこなかった。出身地は栃木と答えてくれるものの、そこから何を話しても反応が悪い。「○○が有名ですよね」などと特産品の話を切り出しても「知らないなあ」「わかんない、ごめん」と会話を打ち切ろうとしてくるのだ。  あまりにも反応が悪すぎるのでたまりかねて「栃木といえば宇都宮が有名ですよね」と話を振ると「しらないなあ」と帰ってきた。栃木出身で宇都宮を知らないとかありえないだろ。  たぶん僕の話など最初から聞く気がないのだ。  こいつはなんとつまらないやつなのだろうか。憮然とする彼の横顔をみてそう思った。こんなつまらんやつ、これまでの人生もつまらなかったのだろうな。そうやって彼のこれまでの人生を否定することでなんとか気持ちを満足させることしかできなかった。
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おっさんは突如、遠回りを指示してきた
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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